CHAPTER Ⅰ 

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CHAPTER Ⅰ 

 今夜は軽めの食事が良い、とエリックは思った。  仕事をひととおり終え、使用人専用の食卓に迷うことなく突っ伏す。  夜が深い。  彼以外の使用人は、自室へ引っ込んだことだろう。  彼はカンバス家に勤める使用人である。  カンバス家とは、英国貴族の末裔で、ロンドンから遠く離れた田舎のお屋敷に先祖代々暮らしている。  そのお屋敷は庭師が腕によりをかけた花々で、年中彩られていた。  カンバス家は多くの使用人を抱えているが、エリックはその中でもずば抜けて秀でていた。  酒にめっぽう強いので、カンバス卿からの信頼も厚い。  彼はそのうちこの屋敷を管理する執事(バトラー)へと昇進するに違いないと囁かれていた。   彼の使用人としての生活は、早いものでもう十年であった。
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