CHAPTER Ⅰ 

2/7
前へ
/18ページ
次へ
 そんな優秀な彼であったが、今日の仕事は一筋縄ではいかなかったようだ。  昨夜、白いティーカップにヒビが入ったのは、今日の自分に対する警告だったのかもしれない、とエリックは思った。    今日の昼、主人の友人ーーブラッシュ卿が急に来訪した。  大学時代からの親友のため、急だったにもかかわらず、カンバス卿は嫌な顔一つしなかった。  その一方でエリックは、ブラッシュ卿を見た途端何か嫌な予感がした。 そして、その予感は見事的中した。  ブラッシュ卿は、顔が良い。  それに加え洗練された知的な人物で、屋敷のメイドたちが騒ぎまくった。  そしてエリックにとって大層残念なことに、普段は頼りになるハウスキーパーが、突然こんなことを言い出してしまったのだった。  「——彼のために、今までで一番豪華な料理を!」  そのスローガンのもとに集った一部の女性陣に頼まれ、今はまだ下っ端のエリックは、自分の仕事以外に、聞いたことも見たこともないような食材を買いに行かされたり、料理の手伝いをしたりと散々な目に遭ったのだ(ちなみに、食材はエリック独自の伝手を使って、何とか当日中に調達した)。    
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加