13人が本棚に入れています
本棚に追加
洒落た外装の店の前で、男は一人佇んでいた。
現在の時刻は二十時。もちろんこの時間ではドアの前に『CLOSE』の札が掛けられている。
男は少し緊張していた。なにせ、ここに来るのは
一ヶ月ぶりだからだ。
大きく深呼吸をして、ドアの取っ手を握る。
カラン、と来客を告げるベルの音が鳴った。
「おかえり。広斗」
「……お邪魔します」
目を細めて微笑む男の名は和希。一人でこの店を営んでいる美容師だ。
五年前に髪を切ろうと馴染みの店に行こうとしたら定休日で、たまたま通りかかった美容室に入ったのがここだった。それが和希との出会い。
友人、と呼ぶべきだろうか。
「久しぶりだね」
「急に来てごめん。迷惑だった?」
「まさか。ちょっと待ってて、もうすぐ片付け終わるから」
和希はそう言って、持っていたゴムほうきで素早く掃き掃除を始めた。
最初のコメントを投稿しよう!