表裏の裏は不純だ

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洒落た外装の店の前で、男は一人佇んでいた。 現在の時刻は二十時。もちろんこの時間ではドアの前に『CLOSE』の札が掛けられている。 男は少し緊張していた。なにせ、ここに来るのは 一ヶ月ぶりだからだ。 大きく深呼吸をして、ドアの取っ手を握る。 カラン、と来客を告げるベルの音が鳴った。 「おかえり。広斗(ひろと)」 「……お邪魔します」 目を細めて微笑む男の名は和希(かずき)。一人でこの店を営んでいる美容師だ。 五年前に髪を切ろうと馴染みの店に行こうとしたら定休日で、たまたま通りかかった美容室に入ったのがここだった。それが和希との出会い。 友人、と呼ぶべきだろうか。 「久しぶりだね」 「急に来てごめん。迷惑だった?」 「まさか。ちょっと待ってて、もうすぐ片付け終わるから」 和希はそう言って、持っていたゴムほうきで素早く掃き掃除を始めた。
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