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「こんな人生も……悪くないかもな……」
朝起きた時は、死にたいほど辛かったのに、ワンダールームに登録してから気持ちが穏やかになった。
多くのポジティブなコメントに心が洗われたのだった。
七階のベランダから見下ろす、チカチカと点滅している信号機。
末松は深夜の街並みを前にしながら、思いついたように自分のSNSを開く。
「え、こっちにも?」
もしやと思い、SNSの中でもワンダールームと検索してみた。
すると、末松が立てたスレッドの内容が面白く、それでいて可哀想だと呟いてくれた人がいたのだ。
その呟きが拡散され、ちょっとしたバズりを見せていた。
「それでスレッドのコメント数が伸びたのか……」
ワンダールームの中で急上昇のスレッドとして上がった理由がわかった。
たまたま誰かが取り上げてくれたから、みんなが同情してコメントをくれたんだ。
それくらい末松の現状は、ネット民が興味を持つものだった。
末松は二本目のタバコを吸いながら、小さくニヤけた。
ちょっとした有名人になった気分だった。
外の空気を吸い、ひと息ついてから部屋に戻る。
そのままベッドにダイブして、重い瞼を閉じた。
ものの五分で、眠りの世界に入る。
……その夜、末松は彼女の夢を見た。
夢の中で、割と鮮明に彼女の姿が浮かび上がったのに……喪失感や悲しみは、全く感じない。
全てワンダールームのおかげだ。
ワンダールームという掲示板の住人のおかげで、末松は前向きになり、そして承認欲求まで満たすことができた。
俺には次があるし……何ならもっとレベルの高いキャリアや彼女を手入れることができる。
末松はそんな自信までついていた。
――朝十時、泥のように眠っていた末松が起きる。
清々しい気持ちは、眠る前と同じだ。
夢の中で新たな気持ちの再確認までできた。
「さて、スレッドはどんな感じかな……」
顔を洗った後、すぐにパソコンを開いた。
まだトップページの急上昇スレッドに、末松のスレッドが君臨しているか確認する。
ワクワクしながら開いたトップページ。
だけど、期待は外れた。
急上昇に選ばれていたスレッドは『ただいま戻りました』というスレッドだった。
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