ワンダールームへようこそ

1/10
前へ
/10ページ
次へ
 渋谷のセンター街にある、とある雑居ビルの一階。  ガタガタと音を立てて動いている古いエレベーターの横に、各テナントの郵便受けがずらっと並んでいる。  郵便受けの隣には、小さな掲示板もあった。  掲示板には何も貼られておらず、その代わりに油性ペンでいかがわしい言葉が落書きされている。  よくある、下ネタ系の落書きだ。 「……これ、何だ?」  末松(すえまつ)はエレベーターに乗って、五階にある占い屋に行こうとしていた。  湿気が気味悪く、空気も薄く感じる……エレベーターを待っている間、警戒するようにキョロキョロと見渡していたら、怪しげな落書きが目に入った。  そして、呟く。 「ワンダールームへようこそ……」  その下にはURLが書かれている。  何だ、ワンダールームって……末松は気になって、そのURLを写真に収めた。  とりあえず、エレベーターに乗る。  ――怪しげな雰囲気が漂う、占いの館。  エレベーターが開くとすぐに店内だった。  中は薄暗く、怪しさを助長するように、ミラーボールが回っている。  受付の隣に待合室があった。受付に座っていた愛想のない、仏頂面のお姉さんが待合室を指差す。  狭い待合室のパイプ椅子に座って、名前を呼ばれるのを待つ。  待合室の中にある本棚には、時代を感じる草臥れた漫画が並べられていた。 「末松さん? お待たせしました」  待合室のカーテンを開けて、背の高い女性が末松の名前を呼んだ。  赤い作務衣を着た、黒髪ロングの女性。いかにものの雰囲気感満載だった。  そのままブースに通される。 「本日はご予約ありがとうございます。どうしてこちらに?」  待合室のチープな椅子とは違う、しっかりとしたアンティーク調の椅子に座る末松。  ここに来た経緯を答えた。 「彼女も仕事も失って、生きる希望がなくなってしまったんです……これから俺、どうすればいいかわからなくなって……」  占い師の女性はうんうんと頷き、末松が事前に送ったデータをまとめた一枚の用紙を取り出した。 「あなた、今年は不幸が重なるみたいね」  姓名判断でもしているのか、用紙に薄いペンで何かを書いている。  末松の角度からは暗くて見えない。 「やっぱりそうなのか……」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加