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渋谷のセンター街にある、とある雑居ビルの一階。
ガタガタと音を立てて動いている古いエレベーターの横に、各テナントの郵便受けがずらっと並んでいる。
郵便受けの隣には、小さな掲示板もあった。
掲示板には何も貼られておらず、その代わりに油性ペンでいかがわしい言葉が落書きされている。
よくある、下ネタ系の落書きだ。
「……これ、何だ?」
末松はエレベーターに乗って、五階にある占い屋に行こうとしていた。
湿気が気味悪く、空気も薄く感じる……エレベーターを待っている間、警戒するようにキョロキョロと見渡していたら、怪しげな落書きが目に入った。
そして、呟く。
「ワンダールームへようこそ……」
その下にはURLが書かれている。
何だ、ワンダールームって……末松は気になって、そのURLを写真に収めた。
とりあえず、エレベーターに乗る。
――怪しげな雰囲気が漂う、占いの館。
エレベーターが開くとすぐに店内だった。
中は薄暗く、怪しさを助長するように、ミラーボールが回っている。
受付の隣に待合室があった。受付に座っていた愛想のない、仏頂面のお姉さんが待合室を指差す。
狭い待合室のパイプ椅子に座って、名前を呼ばれるのを待つ。
待合室の中にある本棚には、時代を感じる草臥れた漫画が並べられていた。
「末松さん? お待たせしました」
待合室のカーテンを開けて、背の高い女性が末松の名前を呼んだ。
赤い作務衣を着た、黒髪ロングの女性。いかにものの雰囲気感満載だった。
そのままブースに通される。
「本日はご予約ありがとうございます。どうしてこちらに?」
待合室のチープな椅子とは違う、しっかりとしたアンティーク調の椅子に座る末松。
ここに来た経緯を答えた。
「彼女も仕事も失って、生きる希望がなくなってしまったんです……これから俺、どうすればいいかわからなくなって……」
占い師の女性はうんうんと頷き、末松が事前に送ったデータをまとめた一枚の用紙を取り出した。
「あなた、今年は不幸が重なるみたいね」
姓名判断でもしているのか、用紙に薄いペンで何かを書いている。
末松の角度からは暗くて見えない。
「やっぱりそうなのか……」
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