7人が本棚に入れています
本棚に追加
家の中から誰から出てきた。
母さんだ。
少し痩せたのではないか?
俺の目から涙が溢れてくる。
母さんは、弟と妹に声を掛ける。
二人は家の中に入っていった。
食事の用意ができたのだろうか。
思えば俺も、こうして家の前で遊び、母に呼ばれて家に入ったものだった。
弟も妹も、そして母も、俺がここにいることには気が付かなかった。
俺は茂みの陰から出ることはできなかった。
こんなことなら帰ってくるのではなかった。
そう思う気持ちは否定できない。
しかし、こうして母や弟妹の姿を見ることができたのだ。
そう考えれば、帰省は無駄ではなかった。
家族が無事であることは分かった。
家族みんなの笑顔を見ることができた。
これでいい。
これでいい。
自分に言い聞かせる。
最後にもう一度、家の周りを見渡す。
そして、しっかりと目に焼き付けた。
結局、「ただいま」は言えなかった。
名残は惜しかったが、俺は駅に戻った。
最初のコメントを投稿しよう!