言えない「ただいま」

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 家の中から誰から出てきた。  母さんだ。  少し痩せたのではないか?  俺の目から涙が溢れてくる。  母さんは、弟と妹に声を掛ける。  二人は家の中に入っていった。  食事の用意ができたのだろうか。  思えば俺も、こうして家の前で遊び、母に呼ばれて家に入ったものだった。  弟も妹も、そして母も、俺がここにいることには気が付かなかった。  俺は茂みの陰から出ることはできなかった。  こんなことなら帰ってくるのではなかった。  そう思う気持ちは否定できない。  しかし、こうして母や弟妹の姿を見ることができたのだ。  そう考えれば、帰省は無駄ではなかった。  家族が無事であることは分かった。  家族みんなの笑顔を見ることができた。  これでいい。  これでいい。  自分に言い聞かせる。  最後にもう一度、家の周りを見渡す。  そして、しっかりと目に焼き付けた。  結局、「ただいま」は言えなかった。  名残は惜しかったが、俺は駅に戻った。
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