後で燃やす日記

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後で燃やす日記

雪が降りそうな寒い日でした。 玄関先に立った時から、私、何となく嫌な感じはしていたんです。 日はとっぷり暮れ落ちて、家には私より先に帰った娘が居るはずなのに、その日はどの部屋も真っ暗で。 鼻を突く湿った冬の空気に、ほんの微かに錆びた鉄の臭いが混ざるのを感じました。 その事実に何を思ったかは覚えていません。 でも、焦ったんだと思います。 私、鍵も掛かっていないドアを引いて、リビングに駆け込みました。 そうして、一つの血溜まりと、その傍らに呆然と座り込んでいる娘の姿を見つけたんです。 突然点いた電気に、眩しそうに細めた娘の目尻から一粒の涙が落ちたのを見ました。 私、娘の肩を揺すって、それから強く抱きしめました。 「貴方は何も悪くない」 そう言いました。 娘の喉から、引き攣った悲鳴が零れて。 嗚呼、どんなに怖かったことか。 この子にこんな酷い思いをさせた、血溜まりの中で冷たく間抜けにひっくり返っている男の襟首を掴みました。 だらんと反り返った、その顔に見覚えがありました。 娘の担任の松尾先生です。 最後に会ったのが二週間前と、わりと最近の授業参観だったので、覚えていました。 「最近物騒だから、生徒の家を一軒一軒、見回りしてるんだって言ったの。先生だからアタシ、何も疑わなかった。そしたら、先生がいきなり中に押し入ってきて、ズボンを脱ぎ始めて……」 早口で一息に、娘は捲し立てました。 このおぞましい獣に、彼女は果敢に立ち向かったそうです。 カッターナイフで松尾先生の首を掻っ切って、倒れて動かなくなるまで何度も何度も、首を狙って刃先を振ったと言いました。 「よく頑張ったね。後は、お母さんに任せなさい。絶対に貴方を守るから」 返り血がべっとりこびりついた、娘の手を握りました。 母の言葉はやはり、大きなものなのですね。 ずっと震えていた娘も落ち着きを取り戻しました。 私の声を、カサカサした肌艶のない手を頼りにしてる、この子を守るためなら、私は鬼にでも悪魔にでもなります。 改めてそんなふうに自分に誓いました。
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