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「やっぱり雨が降った。さすがはコタローね」
「こんなのは序の口です」
コタローは自信満々だ。AIが自信満々というのも変ではあるが...。
真輝はカバンを開けてびっくりした。
あれ、これ、わたしのじゃない。まさか!あの時、ぶつかってカバンを取り違えた。そう言えば、あの人も茶色い革鞄だった。
「顔色が良くありませんね。真輝さん、心拍数が上がっています。深呼吸をしましょう」
コタローのアドバイスに従って、真輝は深呼吸をした。
「吸ってえ、吐いてえ。吸ってえ」
「あ、なんだか落ち着いてきた」
「呼吸は大切です。呼吸の仕方ひとつで健康にも病気にもなります」
「コタロー、まるで医者みたい」
「いいえ。それほどでも...」
「それより、どうしよう。あ、スマホだ」
「相手も真輝さんのスマホを持っていると思います。まずは、自分のスマホにかけてみましょう」
AIは冷静だ。テンパったらAI失格だが。
「でも、知らない番号からかかってきたら、出ないんじゃない?」
「向こうも電話しようかどうか迷っているでしょう。思い立ったら吉日です」
真輝は固定電話から自身のスマホにかけてみた。ファイブコールあたりで諦めて切ろうとした時、思わず繋がった。
数秒の沈黙の後、真輝は「もしもし」と問いかけた。
相手は電話の向こうで深呼吸しているのがわかる。
「えっと、駅前でぶつかった人ですか?」
相手は低く、よく通る声で訊ねた。
「はい。正面衝突をしてしまった、おっちょこちょいの女子です」
すると、相手は吹き出した。
「そうですね。確かに猪突猛進でしたね」
何がおかしいのか、相手はその後も必死に笑いを堪えているようだ。
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