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もし、眠れる森の美女の口が臭かったら、物語は違った結末を迎えただろう。
そんな取り留めのないことを考えていたら、真輝は降りる駅を通過してしまった。気が付いたら、終点まで揺られていた。
時刻は十一時五十五分を指していた。最終電車なので、折り返して戻ることはできない。また、やらかしてしまった。真輝は頭を抱えた。
終点からタクシーを使って帰ることも考えたが、タクシーを使えば、深夜の割り増し料金になって高くつく。だからといって、ビジネスホテルに泊まるわけにはいかない。
そうだ。レンタルサイクルで帰ろう。レンタルサイクルなら一日五百円で済む。足腰は疲れるが、今はそんなことは言ってられない。
終点の駅には誰もいなかった。駅前にはポツンと一軒のコンビニがあるだけだ。
コンビニの真横に数台のレンタルサイクルが置かれていた。
真輝はスマホのアプリを開いてレンタル料金を決済し、自転車に跨った。
日付が変わった頃、真輝は一人自転車のペダルを漕いでいる。虚しい動作だが、ここで野宿というわけにはいかない。
真輝はスカートをたくし上げ、ペダルを踏み始めた。
道は深夜ということもあって、スイスイと自転車が進む。深夜の道は人がいない分、快適だが、少し寂しい。
道はいつの間にか公団住宅地に入った。真輝は腕時計を確認した。かれこれ二時間ほど走っていた。
この分だと、部屋に着くのは、深夜2時を回る。明日は朝一で会議で、眠れる時間は限られてしまう。寝不足が一番、身体的にも精神的にも堪えるのだ。
特にモード系の部署に異動になってから、真輝にはプライベートな時間などなくなった。恋人もいないので、不都合ではないが、やはり時間貧乏にはなりたくはなかった。
公団住宅の前で自転車を止め、バッグの中からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、喉に流し込む。
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