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「いや、でもさ……俺、そこ歩いてただけよ? この後ヤヨイと約束がさぁ……」
「はい! では尋常に勝負です! お命覚悟ですよ! セージュンくん!!」
「え? バッターで命取られんの? え、え? じゃ、キャッチャーは?」
「おっしゃ来いリリーこの野郎! ここで一発ぶちかまして逆転満塁ツーランホームランだァ!!」
「うん? 満塁でツーラン。満塁でツーラン……? え、それどの世界の算数?」
何かと腑に落ちない感じらしいが、これは多分気の迷いだ。試合(死合)は既に始まっている。
外野は居ない、内野も居ない。というか大体バックレた。そんな事は気にしないで、星純はバットを構える。
少女──同級生リリー=ランスは応えるように、右手を振りかぶる。ワインドアップ、身体を激しく捻る動作。
──トルネード投法だとぅ!?
それはかつて、ふらりとスラムを訪れた伝説のピッチャーと同じスタイルだった。あれは光栄な体験だったが、それは今は置いておこう。
一気に、緊張感が跳ね上がる。星純は全身全霊を傾け、両目を見開きバットの握り締め。
「ふんっ!!」
リリーから放たれる白球。引き絞られた身体から、強靭な威勢を以て放たれるボール。
力を込め、勢いを溜め、押し留め、ギリギリと。足先から全身を、力の流路は通り指先へ。
放たれる。その瞬間。
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