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5月、俺は同じ大学に通う佐々木 実紗と共に登山道入口にたたずんでいた。
「山、登ろう」
事の始まりは1週間前、野口が大学の食堂でカツカレーを口にする寸前に、そう初対面の佐々木から声をかけられた事から始まる。
初対面ではあったが、存在を知らなかった訳ではなかった。
一ヶ月程前から気にはなっていた、毎日、頻繁に野口の視界に存在していたからだ。
講義の時も、食堂でも。
ただそれだけにも関わらず、誘いに応じたのは、同学年の年配の友人が一緒に同行する話だったからだ。
俺と佐々木の共通の友人、友人と言うには祖父母程も年齢は離れてはいるが、信用出来る人物がついて来る事がこの登山を決めた全てだったのだが。
「白井さん、やっぱり来られないみたいです」
スマホのビデオ通話を切りながら佐々木を見た。
「うん、メールあったからね」
佐々木はさして興味無さそうに答えて、さっさと登山道を歩き出した。
ビデオ通話の白井は様子がおかしかった。決して俺と目を合わせようとはしなかったのだ。
白井が元々嘘をつける人では無い事を考えると、ただ登山を楽しむ話しではない様に思える。
「……」
俺は地面に預けていたリュックを背負い、
佐々木の後を小走りで追いかけた。
佐々木は170cm近い身長に、肩甲骨迄伸びた黒髪、細身、容姿は俗に言う美人の部類に入る人物だ。
俺としては、そんな事に惑わされる事のない、臆病さと慎重さを持っていると自負していたが、何かハメられた可能性のある現状に本当は美人に釣られたじゃないかと思えてくる。
いったい何が目的なのか?
前方3m先を歩く佐々木を、俺は注意深く観察し始めた。
佐々木は、登山道入口からずっと急な坂道の続く山道をサクサクと歩いて行く。
表情は読み取れない。
道の両側は木々に囲まれ、見通しは利かないのにキョロキョロと周りを見回す佐々木。
「何かいます?」
「何も」
「……」
『いい天気ですね』、『そうですね』的な展開から、それ以上の会話を続けられない俺は頭を抱えた。
「口下手か、俺……」
2人の間にそれ以上の会話はなく、暫くの間無言で歩き続けた。
時折見える佐々木の横顔は、純粋に楽しんでいる様に見える。
何とか会話を行おうと試みたが、登り始めて40分大した会話はできなかった。
景色は相変わらず木々に囲まれ見通しのきかない景色に急な登り坂。
すれ違う登山者はいなかった。
「ちょっと休憩しません?」
佐々木に置いて行かれそうな俺は汗を滲ませ訴えた。
疲労の気配のない佐々木はスマホで現在地を確認し始める。
「この先に開けた場所があるけど、そこ迄頑張れる?」
「解りました」
俺は強がりを口にしていた。
本当は1ミリたりとも足を上げたくない気持ちで一杯の俺は、太ももに手を添えながら歩く。
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