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「それにしても何を書いてたんだい?」
機嫌を損ねた少女を宥めようと、男は話題を変える。
「見れば分かるじゃん」
ふてくされた彼女。
頬を膨らませながら描いていた物を彼に投げる。
「……上手じゃないか。大人顔負けだな」
そこには目の前に広がる湖と周囲の自然が描かれていた。
子供特有の一つの色に拘る事をせず、様々な色彩で個性を出した一枚絵。
「絵が好きなのかい?」
優しく語り掛ける男に、ようやく少女も機嫌を取り戻した。
「そうよ。アンタが遅かったから、幾らでも時間はあったわ」
「アハハ!まだ言うかね。でも何で、こんな深い所まで来てしまったんだい?
探すのに苦労したんだよ」
「アンタが色んな生き物を集めるように、私も色んな景色を大好きな絵にしたかった。
大人になったら、そういう事をするのが夢」
泳ぐ魚達に視線を預けて、少女は彼にそう語る。
「仕事にしたら嫌になるよ」
経験談か、男も魚を見つめながら少女に返す。
「やってみなきゃ分かんないじゃん!」
何故か悔しそうにスカートの裾を握り締め、涙を堪える少女。
「・・・・・・」
男は、しばらく何も言わず、湖の魚に餌を撒いていた。
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