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惑星ヴァージャ (四)
「見て。ここね」
CFと書かれた部分にきゅっと緑のアンダーラインが引かれた。
「仮装体のこと。わたしの本体から複製した人格をクロエ義体にインストールしてるの。あなたを人格ごとコピーした複製体ではなく、仮装体。体ごとコスプレしているようなものね」
外見は自分なのにクロエ自身は知りもしないことをてきぱき説明するカチャと名乗る自分そっくりの女をクロエは呆然と見上げた。
「人格をコピーして他人の体にインストールって――そんなことしてあなた、だいじょうぶなの?」
「平気、へいき。オリジナルのクロエったら、やさしいのね」
両手を頬にあてきゃっきゃとカチャが喜ぶ。自分と同じ姿で自分であればまずすることのない仕草をされると戸惑う。
モニターの表示をカチャのデバイスからもとの体調管理画面へ戻し、ポータブル診断機でクロエをスキャンしながらカチャは説明をつづけた。
「ここは惑星ヴァージャ。地球最後のアイドル、クロエ・フレーザー記念館とテーマパークがある星よ」
「記念館と、テーマパーク……私の……」
記念館にはクロエ・フレーザーの生い立ちや活動だけでなく地球の全球凍結や人類の宇宙進出の歴史などが学べる展示も用意されている。テーマパークではクロエ・フレーザーなりきり仮装を楽しむこともできるという。
「なりきりってる間は自分の本体は休眠状態なの。さっきみたいに籍情報のところにCFがつく。で、仮装義体を返却するときにクロエになりきっていた間の記憶を本体にマージ、併合する仕組みよ」
「じゃあ、カチャはテーマパークのお客さんなのね?」
「初めはね」
カチャが笑った。くしゃっと鼻に皺を集めた衒いのない開けっぴろげな笑みはカチャ本来のものなのだろう。自分の顔で違う人間が演じているような新鮮なような、不思議な気持ちになる。
「バカンスで惑星ヴァージャに来てクロエのなりきりコスプレしたら楽しくて。――スタッフ募集しているって聞いたから前の職場を辞めて引っ越してきたの。惑星住民用の仮装義体、やっぱりテーマパークのと違ってつくりがしっかりしていてとってもいいのね。あなたのコアなファンの間で住民用の仮装義体が大人気なの。わたしはなんとか永住権をとれたけど審査が厳しくてたいへんだった。――企業集団としてのヴァージャ、オーナーはあなただけどシシーがここまで大きくしたのよ」
惑星ヴァージャは豊かな生物資源に恵まれている。食糧や繊維だけでなく、薬や化粧品などの事業を展開していてクロエが三百年前にプロデュースした香水ヴァージャの再現に成功した。
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