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ラーシュ (一)☆
「……ラーシュ」
戸惑い気味にクロエが自分を呼ぶ。躊躇いに強張る体を抱き寄せ、宥めた。
逸るな、逸るな。
肉棒が痛いほど張りつめている。腰を押しつけてしまわないよう細心の注意を払い、ラーシュはクロエの頬に口づけた。怖がらせないように視線を合わせ微笑みかける。
相手はほうぼうで浮名を流したやんちゃ娘だ。不慣れなわけがない。処女のようにだいじにだいじに事を進める必要も本来はない。
しかし躊躇いも懼れも理解できる。
互いの立場が違いすぎる。クロエからすればただの放蕩ではすまない。それはラーシュの側も同じだ。
緊張でがちがちの肩を撫でると、掌に吸いつくようなすべらかな肌の快さに溜め息が漏れた。
――分かっている。これは、夢だ。
何度も何度も夢でなぞった。パーティで出会ったクロエを連れだして初めて体を重ねた夜の記憶だ。幸せな夜だった。
動画を再生するように何度も繰り返し夢見ていればいつか自分に都合よく記憶を捻じ曲げられそうなものだが、そうはならなかった。夢で記憶をなぞるたびに焦りもたつき、気の利いたこともいえず初めて恋をする少年のように戸惑う。
デバイスの画面越しにセレブリティとして注目を集めていたクロエの姿を見たことは何度もあった。女を人生の添えものくらいにしか考えていなかったラーシュにとってクロエは実在の人物ですらない。それなのにパーティで直接視線が絡んだときラーシュは自分が恋に落ちたことを知った。恋が喜びであることを知った。
他にいくらでもいいようがあるだろうに、何もいえない。乳房に頬を寄せ、雨あがりの花のように芳しい体を愛撫する間もラーシュは譫言のようにクロエの名を繰り返した。
「好きだ」
「知ってる」
ぎこちない前戯ののち、いよいよというところで意識が夢とうつつの狭間へとのぼっていくのを感じる。
目覚めたくない。
抱き締めようと伸ばした手が空を切る。夢だと分かっていても下半身が疼いた。痛みを覚えるほど興奮している体が情けなくも滑稽でほとほと自分に厭気が差す。
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