ハルキくんのタブー

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ハルキくんのタブー

 キャバ嬢として勤め始めて一年が経った。  ナンバー3が今の位置。これ以上は望まない。  ナンバー1とナンバー2は、バケモノじみた天才で、何がすごいかと言うと、詐欺師的な『人の好意』の釣り師なのだ。  彼女たちは匂わせが得意で、それはもちろん私たちもそうなんだけど、『好き』という言葉をお客さんに言わない。それなのに『好き』だと錯覚させてしまう。すごいなあと思いつつ、汚いやり方だなあとも思う。まあお金を稼ぐためにしてるのだから、これはテクニックなんだけど。  そんなナンバー1・リサと、ナンバー2・ナギサの二人には好きな人がいる。  このお店のボーイ、ハルキくんだ。  一般会社員より給料はいいと聞くけど、キャバのナンバー1とナンバー2からすれば端金にすぎない収入。  顔がいいわけでもない。こんなお店で働いてるから悪いこともないが、上の下ぐらいで、お店にはもっとすごい美形も来店する。  将来性があるわけでもない。物件としてはそこら辺のアパートぐらいの価値しかない。  でも、リサとナギサはハルキくんのことが好き。  ナゼだろうと考えて、私は開店前、彼に話しかけることにした。  そして、なるほどそういうことかと分かったのだ。  ハルキくんの趣味はゲーム。それも某有名美少女ゲーム。やったことはなくても、タイトルぐらいは聞いたことがある人は多いだろう。  彼は勤務時間中、私たちキャストを眺めながら、嘆息しているらしい。 『女の子は、こんなんじゃない』と。  いわく、 ・他の男と話をするタブー ・色香を用いるタブー ・水着イベント以外で肌を見せるタブー ・男に連絡先を教えるタブー ・宝飾品を身につけるタブー ・軽々しくボディタッチするタブー ・夜に男と会うタブー ・一途じゃないタブー ・処女じゃないタブー ・派手なメイクをするタブー ・やたらお金を稼ぐタブー ・おしゃれな店を複数知ってるタブー ・成人してるタブー ・お酒が強いタブー ・ホテルに泊まり慣れてるタブー ・盛り髪するタブー ・休日に男と会ってるタブー ・男慣れしてるタブー ・トークが上手いタブー ・キャラ設定が読めないタブー  エトセトラ、エトセトラ。  中でも譲れない二つ。 ・声優の声じゃないタブー ・攻略チャートがないタブー  全キャバ嬢を否定するばかりか、かなり多くの女子を否定してる気もするけど、ハルキくんの理想の女子は、それらタブーから外れた女の子(しかも高校生)らしい。  高校生のほうが現役キャバ嬢よりヤバイのに、彼の世界は美少女ゲームの中にあって、理想の女子と結ばれるには、光源氏のように幼い子をそういう風に育てるしかないんじゃないのと思うぐらいだ。  でも、リサとナギサが彼に好意をもつ理由はなんとなく分かった。  ハルキくんは、カラダが目的じゃなく、女を従わせたいとも思っていない。  女に興味がないのではなく、ピュアな恋愛ファンタジーの世界に生きていたいのだ。  オタクとも言えるけど、多分そうじゃなく、大和撫子が好きなんだろう。  ハルキくんの好みに合えば、彼は喜んで戦地にさえ赴く。  軽々しく『キミのために死ねる』と言う男とは違い、彼は本当に愛に殉ずることができる。  なんだ、リサとナギサは見る目あるじゃん。  ハルキくんに愛されたら、彼は絶対に裏切らない。  嘘と裏切りの女の世界は、誠実さの裏側にある。  打算抜きで甘えられる人が欲しいのはみんな同じかもしれない。  ハルキくんのスマホの壁紙は、美少女キャラの画像。  これには勝てないけど、女の対抗心はイラストに負けるほどヤワじゃない。  私もハルキ争奪戦に参加して、女を磨くとしますか。    っていうのも。  っていうのも。  ハルキくんの理想の女になれたら、彼を落とすことができたら、だいたい他の男も落とせるってこと。  女として上を目指すなら、男が望む模範解答を身につけないといけない。  リサとナギサはそれを分かっているんだ。  女って汚いなあ。  ハルキくん、キミはずっとピュアでいたまえよ。  美少女ゲームは妄想だ。 end.
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