星屑の糸をかき集め

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****  リアは一生懸命縫ったドレスを完成させると、それを一生懸命包み紙でくるんで姫様に贈ろうと走って行った。 「姫様!」  しかし、その日の王城は様子がおかしかった。  普段は寝ぼすけなお姫様はベッドにはおらず、既にどこかに出かけていたのだ。  一介のメイドは公務のことなんてわからず、ただ途方に暮れていた。 「姫様、とうとう結婚が決まったんですって」 「なんでも隣国の王子に嫁ぐんですってね」 「あの美しい王子の元に嫁ぐなんて、さすがは姫様ねえ」  先輩メイドたちの噂に、リアは茫然とする。 「え……私、そんな話聞いてないです」  思わず先輩メイドに声をかけると、それはそれは気の毒そうな顔で見られた。 「そりゃあ姫様だって公務ですもの。言う相手も言うタイミングも選ぶんじゃないかしら」 「ですけど……姫様の誕生日は」 「それは多分隣国で祝われるんじゃないかしら。もうちょっとしたら式だし」  それにリアは頭の中がぐしゃぐしゃになってしまった。  リアは根本的に勘違いをしていたのだ。  お姫様とリアは友達同士ではない。お姫様からしてみればリアは面倒を見てくれる人ではあるが、それ以上でもなければそれ以下でもない。公務の相談や愚痴を言う相手ではなかったのである。  なによりも、リアが誕生日の贈り物を用意していたなんて話、自分の式や隣国で嫁ぐ行事が迫っているのだから、そんなこと知らないしそれどころではない。  だが。リアは育毛剤を塗りたくりながら、毎晩毎晩褒めてくれた髪を切っては集めて、一生懸命布を織り、その布でドレスを仕立てていたのである。  もうそのドレスを贈りたい人は、いなくなってしまうというのに。  リアはとぼとぼと中庭に歩いて行くと、庭師がいないのをいいことに、中庭の花畑の中に入り込んで膝を抱えて泣きはじめた。贈り主のいなくなったドレスだけが手元にある。  そこでひょいと彼女を覗き込む相手が出た。 「だから言ったじゃないか。姫は君が思うような相手じゃないって」 「……デイルさんには関係ありません。私がしたかっただけなんです。私が、姫様に喜んでほしかっただけで、自己満足だったんです」 「怒りはね、怒れる時にきちんと怒らないと体を蝕む呪いになるよ。悔しいなら悔しいと言いなさい。悲しいなら悲しいと言いなさい。溜め込むのが一番毒になるのだから」  デイルに言われ、リアはみるみる涙を溜め込み、とうとう決壊した。音を立てずに泣いていたというのに、今は号泣して大声を上げている。 「……綺麗って言われて嬉しかったんです。喜んでほしかった、それだけでいいって思ってたんです。まさか誕生日より先に私を置いていなくなるなんて、思わなかったんです」 「そうだね。せめていなくなる日は伝えるべきだった」 「私……姫様のこと、本当に大好きだったんです」 「そんなことわかっているさ。まあ、せっかく自分でつくったドレスなのだから、君が着ればいいじゃないか」 「……え?」 「君が布から織ってつくったドレスなのだし、どうせ贈り主はもういないんだ。君がもらってしまってもいいだろう? なによりも君の髪は美しい。きっと似合うよ」 「……私が着ても、髪の色と同じドレスでみっともなくなるだけですよ」 「そんなことはないよ。私は魔法使いだからね」  意味がわからないまま、リアは小屋を借りてドレスに着替えた。  星屑色の髪に、星屑色のドレス。お姫様に合うよう、一生懸命ふんわりと広がるドレスを縫ったのだ。 「……やっぱり、似合わない。姫様の金色の髪に合わせてつくったんだもの」 「そんなことないさ。ほら」  そう言いながらデイルは彼女の胸元に花をあしらった。真っ赤なバラの花であり、星屑色のドレスが一気に華やいだ。 「ほら、よく似合う。どうだい、私と一緒に踊るかい?」  デイルはそっと手を伸ばすので、リアはその手を取った。  年齢不詳の彼の手は、とてもじゃないが年老いたものとは思えなかったが、様々な魔法を産み出す魔法の手であった。  彼の優しい手に導かれ、リアは初めてダンスを踊った。 「……姫様、お幸せに」  ようやっと大好きなお姫様に祝福の声を上げられたリアは、デイルの優しさに今はただ、甘えていたかった。 <了>
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