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0.俺に恋はほど遠い
なんというか、恋愛って一生できる気がしないなって、思う。
窓の下。放課後の校舎裏。向かい合う男子生徒と女子生徒。誰がどう見ても、眩しい告白のワンシーン。
夏休み前に女の子から告白とか、どんな少女漫画だよ。おまけに、男のほうは背の高いイケメンという感じだし、女の子もかわいい感じがする。
まぁ、顔は見えないんだけど。そういう雰囲気というやつだ。
二年七組の教室を出てすぐの廊下の窓枠に肘をつき、改めて外を眺める。早々に帰るつもりで教室を出たわけだけど、これは不可抗力だろう。
うまくいくのかなぁ、なんて。完全に野次馬を決め込んだ俺の背中に、べたりと野井が張り付いた。「一颯」と親しげに俺を呼ぶ。
「なに見て――って、なんだ。一年の王子じゃん」
「王子?」
肩に回った腕を解くことも忘れ、俺は繰り返した。なに、そのあだ名。王子って。ちょっと面白すぎないかな。
「そう、王子。めっちゃモテるらしいよ。うちの高校に入ってからの四ヶ月で二桁以上告られてんだって」
「ええ……」
俺、一回もないんだけど、という残念な事実を呑み込んだら、妙にドン引いた声になってしまった。けたけたと野井が笑う。
「ヤバいよな。しかも、ぜんぶ断ってるんだって。今回もそうなんじゃね?」
「今度は誰だよ。あいつ、このあいだ、みみちゃん振ったって聞いたんだけど」
俺、狙ってたのに、とぼやきながら、反対側に犀川が現れた。
べつにいいんだけど、なぜ犀川も当然のように俺の肩に肘を置くのか。重くはないけど、暑苦しいし、できれば、ちょっとやめてほしい。そう思ったものの、俺は軽い愛想笑いに留めた。人生、揉めないことが一番だ。
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