1.ケータイ小説みたいな恋は求めてない

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 もう操作覚えた? わからないことある? 大丈夫? など、など。  交代時間を五分過ぎてもちやほやと世話を焼いていたおばさま方だったが、川又さんの「新しい子困らせないでよぉ」の泣き声でバックヤードに引き上げてしまった。  ふたりになった途端に訪れた沈黙に、俺は無意味にカウンター内の整理を始めた。完全に手持無沙汰だし、落ち着かない。どうしたらいいんだ、これ。 「じゃ、おつかれさまー。がんばってねぇ」  レジの前を通るおばさまたちに愛想笑いを返し、ちらりと瀬尾くんを窺う。  暇そうに立っているだけなのに妙な雰囲気があるのだから、イケメンとはとんでもない生き物だ。  あと、背が高い。四階から見たときも思ったけど、本当に高かった。日向も無駄に高いけど、瀬尾くんも百八十超えてるんじゃないかな。  五センチくらい分けてくれないかなと勝手なことを考えていると、めちゃくちゃ面倒くさそうに「なんすか」と瀬尾くんが言った。ちなみに、視線はいっさいこちらを向いていない。  これのどこが愛想が良いというんだ。愛想が良いというのは、川又さんとか川又さんの奥さんとかなるちゃんのことだろう。衝撃を受けたものの、俺は愛想笑いを刻んだ。  まぁ、見てたのは事実だし。 「ごめん、なんでも」 「そっすか」  またしても、視線は一度も動かなかった。  ……なに、こいつ。  いや、本当に。愛想笑いの状態で固まりかけたものの、ひっそりと息を吐くことで俺は持ち直した。落ち着け。  かわいくない。びっくりするくらいかわいくないけど、だが、新人だ。川又さんにも頼まれている。気持ちを切り替え、俺は改めて話しかけた。
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