1.ケータイ小説みたいな恋は求めてない

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「ええと、この時間帯ははじめてなんだよね。レジとかもう大丈夫?」 「研修で教えてもらったんで」 「あ、そう」  「わかんないことあったら聞くんで、べつに大丈夫っす。気にかけてもらわなくても」 「……あ、そう」 「急にヒスんないでくれたら、それで」  数日前のやらかしを持ち出され、俺は今度こそ黙り込んだ。  いや、本当にかわいくないな。日向もかわいくないけど、それでももう少しマシだよ。兄ちゃんって纏わりついてくるだけ。機嫌の良いとき限定だけど。 「あとさぁ」  ちら、と絶対零度の視線が俺を射る。 「覗き見してたでしょ。俺、そういうのマジ嫌なんで」 「……」 「お友達に余計なこと言われても嫌なんで。俺がバイト入ってきたとか言わないでくださいよ」 「……言わねぇよ」  かわいくないを通り越して、なんかちょっと腹立ってきたな。愛想笑いが完全に固まったことを自覚する。  いや、俺も悪かったかもしれないけど。たまたま目に入っただけだし。不可抗力だし。王子って馬鹿にしたのは野井と犀川だし。……いや、さすがに聞こえてないと思うけど。 「ならいいんすけど。じゃ、俺、チルド出してきまーす」  するりとレジを離れた背中に、俺は深々と溜息を吐いた。うなだれるようにレジカウンターに両手をつく。
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