2.偽装彼氏始めました

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「先輩、一緒に帰ろ。送ってってあげる」  シャツを脱ぎ、さぁ帰ろうとしたタイミングでのお誘いに、俺は胡乱な顔を向けた。その視線を受け、瀬尾くんがことりと首を傾げる。 「なに、嫌?」 「いや、嫌じゃないけどさぁ」  瀬尾くんの顔でお願いされて、断ることのできるやつはいないんじゃないかな、とも思うけどさ。  スマホを取り出そうと尻ポケットに突っ込んでいた手を抜き、瀬尾くんに問いかける。 「あのさ、この恋人ごっこ、どこまで有効なの」 「どこまでって、どこまでやれるかって話?」 「じゃ、なくて」  なんだ、どこまでやれるって。モテる男の言うこと、違いすぎるだろ。内心でドン引きしつつも、俺はへにょりと眉を下げた。 「バイト中だけだと思ってたから」 「いや、外に俺のこと待ってるっぽい女いたんすよね」 「ああ、……そういう」 「先輩のこと助けてあげたでしょ? だから先輩も俺のこと助けてよ」 「いっそ清々しいな、瀬尾くん」  べつに、まぁ、いいんだけど。なにせ、いろいろと恩はある。呆れ半分で了承し、俺はバックヤードの扉を押した。   「あ、瀬尾くん。これ、あげるよ」  外に出たところで、店を出る前に購入したジュースを渡すと、瀬尾くんは不思議そうに瞬いた。夏の夜の蒸し暑い空気が、さらりと瀬尾くんの髪を揺らしていく。
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