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「っつか、いまさらだけど、なんでコンビニ? 瀬尾くんみたいな子ってさ、もっとおしゃれなとこでバイトするじゃん」
駅前のスタバとか。カフェとか。あと居酒屋とか。バイトしてる人たち、みんな陽キャみたいな感じの。そういうところ、似合いそうなのに。
恒例になりつつあるバイト終わりの帰り道。尋ねた俺に、瀬尾くんはあっさりと実情を明かした。
「ああいうとこ、客もバイト仲間も寄ってきそうじゃないっすか。コンビニくらいでいいっつうか」
「ああ」
簡単についた想像に、いかにも気の毒にという感じの相槌になってしまった。だが、かわいそうにと感じたことは事実である。
――なんか、本当にけっこう変わったんだよな、瀬尾くんのイメージ。この夏休みで。
同情されるキャラではないだろうと勝手に判断をしていたものの、ふつうにかわいそうに思うこともある。
イラッとする場面もあるけれど、ありがたいと感じる瞬間も多い。それで、これはあたりまえなんだけど、日向の同級生なんだよな。
どれだけ格好良くて、大人っぽくても。そんなことを考えていたら、ふっと瀬尾くんが笑った。
俺をからかうときの顔だとわかったが、無視をするという選択肢はない。ちらりと瀬尾くんに視線を向ける。
「なに?」
「いや、先輩はコンビニでも言い寄られてたなーって思って。俺も気をつけよ」
「おまえ……いや、でも、大変だよな。好きでモテてるわけじゃないもんな」
「先輩って……」
「なんだよ」
「いや、なんか気が抜けるなと思って。こういうこと言うと、モテ自慢って思われて、誰も心配してくれねぇもん。女なんだからどうにでもできるだろって」
わかるよ、と言う代わりに、俺は笑って頷いた。実際には少し異なっているのだろうけれど、それでも、その悩みだけはわりとわかるつもりでいる。
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