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「兄ちゃん、おかえり」
ひとつ下の弟の声かけに、ぎこちなく頷いたはいいものの、俺の意識は完全にもうひとりに持っていかれていた。いや、王子じゃん。
……でも、そっか。日向の友達だったんだ。
弟の日向は、俺と同じ高校に今年から通っている。同学年の王子と交流があってもおかしくはないんだけど。あまりのタイミングにちょっと驚いてしまったのだ。
扉に手をかけた状態で立ち尽くす俺を見て、不審そうに首をひねった日向だったが、すぐに納得した顔になる。
「あ、大丈夫。こいつ、ふつうに女好きだから安心していいよ」
誰がそんなこと心配したよ。心底うんざりとしたのだが、恨み言を告げるには弟の顔はお気楽すぎるのだった。「誰もそんな心配してないから」とぐったり返すに留めたものの、王子は気になったらしい。
「なに? 女好きだから安心って」
「ああ、えっと。うちの兄ちゃ――」
「なんでもないから!」
誤解を招く言い方をした日向のせいでしかないが、俺は勢いよく台詞を遮った。日向、おまえも、ろくでもないことを暴露しようとするな。頼むから。
赤くなった気がする顔を振ったところで、俺ははたと我に返った。驚きと呆れに染まった瞳が四つ、俺を見ている。
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