1.ケータイ小説みたいな恋は求めてない

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「おつかれさまーっす」 「噂をすれば。瀬尾くん、どうも。おつかれさま。今日もよろしくね」 「あ、ども……」  と、入口に顔を向けて挨拶をしようとしたところで、俺は固まった。いや、王子じゃん。  その俺と怪訝な顔の王子を見比べ、川又さんはことりと首を傾げた。川又さんはただのおじさん(推定三十代後半)なのに、異常に仕草がかわいい。  昼間シフトのおばさま方が「癒しだ」と噂していることも俺は知っている。 「あれ? もしかして知り合いだった? そういや、ふたり、同じ高校だったかな」  王子はなにも言わない。俺はやむなく川又さんにぎこちない愛想笑いを向けた。 「えっと、弟の友達で」  数日前にほんの数分喋っただけだが、嘘ではない。 「ああ、なんだ。じゃあ。瀬尾くんも安心だね。よかった、よかった」 「はは、……ですかね」  王子がなにも言わないので、またしても俺が愛想笑いを返すことになってしまった。 「じゃあ、そういう縁もあるということで。遠坂くん、しっかり面倒見てあげてね。まだ新人さんだから。瀬尾くんも。遠坂くん面倒見良いから。安心してなんでも聞いて教えてもらってね」 「っす。よろしくお願いします」  川又さんに言われたのでしかたなくとばかりに王子、改め瀬尾くんがぺこりと頭を下げる。 「いや、こちらこそ。……よろしくお願い、します」  なに敬語で喋ってんだ、俺。内心で自分に突っ込んで、バックヤードにかかっている時計を見上げる。十七時二分前。
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