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「じゃ、俺、レジ代わってきまーす」
「はぁい、よろしくねぇ」
愛想の良い川又さんの声を背にバックヤードを出れば、ピロンと間抜けな電子音が鳴り響く。
客のいない店内を通り抜けレジカウンターに近づくと、昼間シフトのおばさまたちがにっこりとほほえんだ。いつもに増して愛想が良い。
なんかこわと思いつつ、「おつかれさまです」と俺もにこりと笑い返した。おばさまたちに逆らうべからず。かわいがられたほうがもろもろお得。一年間のアルバイトで得た経験則である。
「遠坂くん。もう挨拶した? 新しいバイトの子、すっごくきれいな子よねぇ」
「はは、……ねぇ」
「テレビに出てるアイドルの子みたいじゃない? すっごく愛想も良いし。このあいだ研修で昼間に入ってくれたんだけどね、呑み込みも早いし素直だし、もうかわいくって」
「え?」
「あら、やだ。遠坂くんもかわいいわよ」
いや、そうじゃなくて。なに、愛想が良いって。なに素直って。俺、今日含めた三回の遭遇で、笑顔とか一回も見てないんですけど。
混乱しているあいだにピロンと音が鳴り、のしのしと歩いてきた瀬尾くんが「っす」とおばさまたちに頭を下げた。
……いや、愛想良いか、これ。
王子の顔面フィルターが補強効果を生んでいるとしか思えなかったわけだが、おばさまたちはにっこにこなのだった。なにも言えないとはこのことよ。
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