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「轟くん、文芸部に興味ない?」
高校に入学して一ヶ月と少々。それまで一言も会話を交わしたことのない、クラスメイトの倉科唯から突然話しかけられた。
「文芸部? 何で?」
僕の素っ気ない態度にも、彼女は意に介さずといった様子で話し続ける。
「いっつも休み時間、小説を読んでるでしょ? しかも宮沢賢治とか川端康成とか昔の文豪のさ」
ブックカバーを付けて持ってくるべきだった、と自身の行いを悔いた。人に自分の好みを覗かれるのは、何処かこそばゆい。
「うん。読んでるけど、僕ただの読み専だよ? 文芸部って小説書いたりするんでしょ? 僕書けないよ」
僕にとって小説というものは、あくまでも読むものであり、書くものではなかった。同年代の作家が小説家としてデビューしたというニュースをテレビで見ても、それが変わることはなかった。
「そもそも、この教室で小説を読んでるのって、私と轟くんぐらいだよ? 小説を読んでる時点で素質があるんだよ」
彼女の言葉が暴論にしか思えなかった僕は、「興味ないね」とだけ吐き捨てた。そんな僕に対しても、彼女は笑顔で「良かったら考えといて」と言った。
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