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箸袋集め
親子ドライブを軽くするつもりだったのに、気づけば渋滞にハマり夕食時を迎えていた。
大五郎は時計をちらりと見ながら近くの飲食店を頭に思い浮かべた。
「なあ、二人で飯食いに行くか?」
「ママに怒られない?」
「もうママには連絡したよ。男旅最終章・定食屋。どうだ?」
「テイショクって何」
「ご飯味噌汁おかずのセットだな」
「ぼくマックがいい」
「今日は男旅だぞ? 大人にならんでいいのか?」
「テイショクって大人なの?」
「そう、これ食って人は成長するんだ」
「行く」
小三の息子の初定食屋。ファミレスやファストフードは行くが、定食屋はない。
息子は遠くについてるテレビ、座卓で新聞を読んでるオヤジ、床がちょっとぬるっとした店内が不思議らしく、きょろきょろしていた。
それを大人だと思ったらしい。
背伸びしたい息子は座卓であぐらをかくと、お品書きを広げた。
「どれがテイショク?」
「全部だよ。パパは生姜焼き定食にしようかな」
「ぼくはどれ?」
「お前何食いたい?」
「ハンバーグ」
「すいませーん、生姜焼き定食ご飯大盛と、ハンバーグ定食」
「はーい。あ、お水はセルフでお願いしまーす」
息子が給水機から慎重に水を二回運び、さらに五分待つと、定食がやって来た。
「おうちのご飯みたい」
「ママはご飯頑張るからなあ。よし、いただきます」
「いただきます」
息子が割りばしの袋を取る。そこには“味自慢・松よし”と書かれている。
どうするのかと思えば、ポケットに入れた。
「それどうすんだ?」
「男旅記念に集める」
「じゃあまた今度行かないとな、男旅」
「うん!」
生姜焼き定食は、鼻の奥をツンとさせる味がした。
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