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平常時は、桜色のような淡い光で済むのだが、暑いときや熱があるとき、また、怒ってるときや恥ずかしいとき、それから体温が上がったり感情が昂ったりすると、私の体は通常よりも濃いピンク色の光を帯びる。そういうときは、光量も普段より増す。夜の月のような淡い光ではなく、夏の日差しのように鋭い光を放ってしまうこともある。
子供のときに高熱を出したときは、ほぼ赤に近いピンクの光に全身が包まれた。光量も普段の倍以上あって、私自身、まぶしくて満足に目を開けていられなかったのを覚えている。あのとき、サングラスをかけて診察してくれたお医者さんは元気だろうか……。
窓際に寄ってカーテンを開けると、眩しい朝日が部屋に転がり込んでくる。電気をつけていたさっきまでと、さほど変わらない明るさで部屋が満ちる。
青い空に白い入道雲と太陽が浮かんでいるのが、レースのカーテン越しに見える。
今日も暑くなりそう。夏は気温が高いから私を取り巻く光も、桃色くらいに濃くなってしまう。通行人から振り返って二度見されることも多いし。変に目立つから夏はあんまり好きじゃない。
早く夏が終わればいいのに、と、ちょっぴり憂鬱な気持ちで、自分の部屋を出た。
生まれてから小学校二年生の六月まで、私はお母さんと東京の片隅の古いアパートで慎ましく暮らしていた。お父さんは、私が赤ちゃんの頃からずっといなかった。写真なんかも一度も見せてもらったことがない。一度だけ、お母さんに「どうしてうちにはお父さんがいないの?」と尋ねたら、ギュッと抱きしめられた。それからはお父さんについては何も訊いていない。
お母さんは家から近いスーパーで、「お弁当のお惣菜を詰める人」として働いていた。
仕事がどんなに忙しくても、十九時までには絶対家に帰ってきて、私と一緒に夕飯を食べてくれた。お母さんは料理が苦手だったので、夕食はだいたい職場でもらってきたお惣菜だった。その後は一緒に洗い物をして、一緒にお風呂に入り、一緒の布団で就寝する。お母さんは、家に居る間はほとんど私にくっついていたように思う。私に寂しい思いをさせまいと思っていたのか、それか幼い一人娘が可愛くて仕方なかったのだろう。働き詰めでしんどかっただろうに、私が何をしても「カワイイ」と褒めてくれた。愛しんで育ててくれていた。
「なんで私の名前って、春雨(はるめ)なの?」
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