これは虚構に近い、普通の恋

7/153
前へ
/153ページ
次へ
 膝に手を置いて、私と目線の高さを合わせるように若葉くんが問いかけてくる。彼の目を見れない。 「僕は今でもしっかり覚えてるよ。あんな点数、初めて見たもん。特に数学は酷かったね」 「いや……それは」 「春雨が勉強苦手なのはよく知ってるつもりだったけど、五教科ぜんぶの点数合わせて二五〇点切るなんて……。正直びっくりしたよ」 「だ、誰にでもできることとできないことがあるでしょ?」  煽られるのも限界で、私は言い返してみた。 「それはまあ、そうだけどさあ……」  苦い顔になった若葉くんが元の姿勢に戻る。 「若葉くんだって漫画描くのはすごく得意なのに、若い女の人のことはめちゃくちゃ苦手じゃん。満員電車で、近くに女の人が来たらスマホのメモ帳に『場所変わって』って書いて私に見せてくるくらい苦手じゃん……東京は若い女がわんさか歩いてるから苦手だって言って、打ち合わせはほとんど電話で済ませちゃうし、たまに編集さんにわざわざこっちまで来てもらったりしてるし、仕事にまで支障出てるじゃん……!」 「そ、それとこれとは別なの。僕のはわがままじゃなくて、本当に女の人が無理だからそうしてるんだよ」 「何がどう別なの……? 私が数学苦手だから悪い点をとることと、若葉くんが女の人が苦手だから避けるのと何がどう違うの?」  首を傾げて、純粋な眼差しを向けると、若葉くんは返答に詰まった。 「そうだね、何にも違わないね。僕が悪かったよ、今度つくるからね、朝ごはん作れないから、あっちに行っててね」 「あ、ごまかした」  キッチンから半ば追い出されるようにして背を押され、不承不承、私はハートの卵焼きは諦めることにした。  ダイニングテーブルに置かれたリモコンを拾い上げる。テレビを点けると、天気予報の画面が映った。うちの県の地図のあちこちに、太陽マークが浮かんでいる。 「????つづいて、県内のお天気情報です。最高気温は秋田市が34度、にかほ市が31度、由利本荘市は32度と県内全域にかけて、厳しい暑さとなる見込みです。スタジオにお返しします」  ローカルニュースのお天気お姉さんが、万人受けしそうな眩しい笑顔で残酷的なことを宣っている。 「若葉くん、今日34度だってー……」  テレビの前に立ったまま教えてあげる。思わず、げんなりとした声になった。 「チャンネル替えてみて」
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加