もっと苦しかったらいいのに

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もっと苦しかったらいいのに

 必死に抵抗したつもりなのに、結人は私の声なんて全く聞く気がないようだった。  下着を見られることも胸を直接触られることも初めてで、やめて欲しいと訴える度にキスを落とされて苦しくなる。喋るなって言われているみたいで、この行為に私の意思が全くないことが苦しい。  たとえ形だけでも付き合ってるって言うつもりがあるなら、せめてもう少しくらい私の気持ちを汲んでくれてもいいんじゃないかと思う。  普通の恋人同士がすることならもっと甘い雰囲気になるはずなのに、そうじゃないからお互いこんな苦しい顔をしている。 「ゆい……っ、ん、ふっ……」 「和音、泣くのやめられる? お願いだからそろそろ泣き止んでよ」 「だって、やだ……っふぁ、あ……ん、き、キスするのもや……っひぁ」  泣き止んでと言うくせに、私を泣き止ませる行動はしてくれない。  頭を撫でられても指で涙を拭われても、この行為を続けるつもりなら勝手に涙が落ちてくる。そんな困った顔で見下ろされたって、私だって困るのは同じだ。 「あ……っ、ん……」  足の間に伸ばされた指が、表面を撫でるようにしてゆっくり中心に触れる。軽くクリを潰されると思わず声が漏れて、ぎゅっとシーツを握りながら僅かに腰を浮かせた。 「は……っん、ん……」 「ああ、良かった。ちゃんと濡れるね?」 「ちが……っひ、んん……っ」  こんなところを誰かに触られるなんて思っていなかった。  結人は服を着たままなのに、私だけが肌を隠すことができないのが恥ずかしくて堪らない。  足を閉じたところで触るのやめてくれるわけでもなくて、逃げることの出来ない状況にぐっと耐えるしかなかった。 「ひ……っあ、あぅ……ん」 「っは、ナカきっつ……。もうちょと慣らそうか」 「んぁ、や……っう、も……っあ」  ナカに挿れられた指が曲げられ、お腹の内側を押すように刺激する。  何の意味もないと理解してからは抵抗する事も馬鹿らしく思えて、ただこれ以上声を漏らさないことだけに集中した。  ここまでされているなら、変に抵抗して長引かせるより早く終わらせた方が賢い気がする。  どうせ途中でやめてもらえるわけがないのだ。それなら正常に脳が動いているうちに全部終わった方がいい。  さっきからずっと身体が熱くて、変な声が漏れそうになる。これ以上こんな触り方を続けられたら、私の方がおかしくなってしまう。 「……和音?」 「も、なんでもい……早くして。あ、終わって、最後までしていいから」 「は……?」 「慣らすとかいらな……もっ、ほんとに早くして、やっ……」 「初めてだよね? 無理だよ、ちゃんと慣らす」 「ほんと、も……やだ、こんなの時間かけなくていい……っひぅ、あっ、う……」 「こんな狭いのに馬鹿なこと言うな。なあ、力抜いて」 「っん、ん……っう」  どれだけ拒絶しても無意味で、とにかく結人は私が嫌がる事をしたいらしい。  痛くても酷くてもいいと何回も訴えたのに、言えば言うほど丁寧に時間をかけて触られるのが本当に怖かった。  何を言っても聞いてもらえない事だけが分かって、いつ終わるのか分からない恐怖が脳を麻痺させていく。  私が嫌がる所を見つけたらその場所をしつこく押されて、濡れていると聞かせるように音を立てながら結人が指を動かした。  力を抜けと言われても、どうすればいいのか分からない。  声を上げたり濡らしてしまうのが何より恥ずかしくて、そんな醜態を晒してしまう自分が心底嫌になる。 「和音、ここ好き?」 「……っ、も、ちがう……こんな、ぜんぶちがう、っあ」 「腰揺れてるね。無意識?」 「うっ、あ……吸うのやだ、や……っちが、ちがうも、っう……」 「ここ弱いね。声抑えられなくなってる」 「っん、あぁ……やっ、だめなのそれ、っひぁ、っくん」  何をされているのかどんどん分からなくなっていき、少し強めにクリトリスを吸われたところで我慢できずに達してしまった。  一度イッてからも時間を掛けて指でナカを広げられ、気持ち良いのと怖いのとで頭の中がぐちゃぐちゃになる。  自分の指で触ったわけではないけれど、ドロドロになっていることなんて嫌でも分かった。聞きたくもない音を何度も聞かされたのだから、自分がどういう状態かなんて見なくても分かる。 「んぅ……っ」  くちゅっといういやらしい音を立てて指が引き抜かれ、結人が下着の中から硬くなったものを取り出す。  下半身に視界がいかないように結人の顔を見つめていると、目が合った瞬間に軽く額に口付けられた。  本当にこのままするのだろうか。  コンドームのパッケージを破る音がやけに大きく聞こえて、少し息を整える余裕ができたこの数秒で再び恐怖が募っていく。 「ゆい、ゆいと……」 「ん、なぁに?」  甘やかすような柔らかい声が耳元で落ちる。  向けられる瞳は優しいのに、押し当てられた部分が熱くて硬い。 「やっ……! ひ、あ、あっ……んぅ」 「っは、気持ち良い……」 「ひぁ、んっ……あっ、は……」 「あー……よかった。ちゃんと気持ち良さそう」  こんな思いをするくらいなら痛い方がマシだった。望んでしている行為じゃないのに、こんな風に感じてしまうなんて最悪だ。  本当に嫌なのに、全然伝わっていなかったらどうしよう。 「和音、こっち見て」 「も、いつ終わるの……分かんな、やだ……」 「俺がイッたら終わり。頑張って?」 「うっ……」  息を吐くと同時に動かされ、それが全然苦しくない事が恐ろしい。  初めてなのに痛くも苦しくもなくて、むしろ気持ち良いとさえ思ってしまう事が恥ずかしくて堪らない。 「あっ、や……! やだ、っあ、ひっ……んっ!」 「大丈夫? 奥まで入ったけど痛くない?」 「っふ……う、ふぁ……っん」  痛いと言ったら信じてくれるのだろうか。こんなにも甘ったるい声が出てしまうのに、説得力なんて全然ない。 「ちがっ、や……んぁ」 「ああ、でもこれが嬉しいと思ってるの、俺だけなんだっけ? ホント、腹立つ……」 「っう……、あ」 「キスだって、和音にとっては別にどうでもいい事だからしてくれたんだもんね?」 「は……」 「どう? これもしてみたら別に大した事なかったりする?」  大した事ないわけがない。ぶんぶんと首を横に振ると、結人の表情が微かに緩んだ。 「……そう、良かった」 「な、にが……っきゃ、っん」 「なあ、和音の声聞きたい。もっと可愛いやつ」 「……なに、っほんと、や……っうん」 「たまに甘くなる。それ、気持ちいい時の声?」  上擦った声が部屋に響いて、どんどん息が上がっていく。  動かれる度にお腹の奥がぎゅっとして、結人の腕を掴む手にぐっとチカラが籠った。 「っや、あ、も、またイッ……イッちゃ、なんで、やだ……」 「好きなだけイッていいよ。全部見せて」 「は、あ……っも、むりやり気持ち良くするのやめて、いやなの……っほんと、結人がイケるならそれでも……っひ、うっ……」 「言ってる事は可愛いのにね。結局拒絶だもんなぁ、それ」 「ひっう、あ……やっ、う……」 「このままナカでイケる? イッてよ」 「やっ……あ、イク、イッちゃ……あ、ンンッ!」  こんなの、我慢しようと思って自分でコントロールできるものじゃない。  結人に奥を押されると受け入れるしかできなくて、酷い声を上げながらまたイッてしまう。  私が達するのと同時に吐息混じりの低い声が耳元で響き、ゴム越しに熱いものが放たれたのが分かった。
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