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「我々がこの太陽系第三惑星、すなわち地球を住処と定め、地球人に擬態し、ひそかに暮らしはじめてから、丸三年が経過しました。
そのような中、今、この星の在来星人である地球人類が絶滅の危機に瀕しています。
原因はひとえに、我々による地球人の捕食・売買を目的とした乱獲です。
今後もこの星で平和的に暮らしていくために、以下のような規則が定められました」
一、地球人の捕獲・採取、殺傷・損傷、売買等を原則として禁止します。
二、生息環境の保全を図るため、一部地域を「生息地等保護区」に指定します。
三、地球人の繁殖促進が必要な場合には、「保護および増殖計画」を推進します。
「我々は、地球人にエサを与えたり、無闇に触ったりしてはいけません。また地球人の髪、骨、爪、その他の加工品を売ったり買ったりしてはいけません。この星で、ふたたび彼らがその営みを取り戻す日まで、末長く見守っていきましょう」
キャスターの台詞と被さるように、ピンポーン、とチャイム音が鳴る。
テレビから聞こえてきたのだと思ったが、どうやらそうじゃないらしい。
自宅の、玄関のチャイムだ。
誰かが訪ねて来たようだ。
わたしは動くことができなかった。
無意識のうちに息を潜めている。
テレビのキャスターの声だけがやたら大きく響く。わたしはチャンネルをつかみ、一番下まで音量を下げた。
来客の知らせを無視し続けていると、今度はドンドンドンと扉を叩く音がした。
「泉さぁん。203号室の斉藤です。町内会費の集金に来ましたぁ。ご在宅ですか、ご在宅ですよね? だめですよぉちゃんと期限までに払ってくれなくちゃ。さあここを開けてくださいな」
ドンドンドンドンドン。
激しくなる音が頭蓋に響くのを感じながら、わたしはぼんやり考えた。
203の斉藤さんは、果たしてわたしと同じ地球人なのだろうか?
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