視線

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人が、人から見られる理由があるとしたら。 人の視線を集めてしまう何かがあるとしたら。 それはいったいどんな場合だろう? 他人と比べて明らかに違う点がある。 アイドル並みに美しい。 奇抜な格好をしている。 ああそうだ。大怪我をして、松葉杖をついているーーとか。 どれもこれも、わたしには当てはまらない。 大学から帰ってすぐ、家のカーテンを閉め切った。 あり得ないことだが、たまに想像してしまう。 ベランダに知らない誰かが立っていて、じいっと家の中を覗き込んでいる姿。今日はその妄想が現実になりそうで、たまらなく嫌で、恐怖の種を遮ってしまいたかった。 ドアの鍵も確かめた。 チェーンもかけた。 郵便受けにガムテープも貼った。 キッチンの換気口も閉めたかったが、壊れて動かなかったので、隙間に新聞紙を詰め込んだ。 「大丈夫だよな……?」 一人暮らしだから、誰が答えてくれるわけでもない。が、思わず呟いてしまう。 無音が怖かったので、テレビをつけた。 一瞬、ノイズが走ってぎょっとする。 テレビが壊れたかと思ったが、そのあとは正常だった。 明るい番組を探すため、チャンネルを切りかえる。 パッとニュース画面が映った。 見たことのないニュース番組だった。 キャスターの女性が、光の(とぼ)しいタレ目をこちらに向けている。 「みなさん、こんにちは。今日のトピックをお伝えします。 『絶滅の恐れがある在来星人の種の保存に関する規則』が定められて、一週間が経ちました。 これは地球人を絶滅させないための規則であり、これを守ることは地球人、ひいてはのためにもなるのです。 今初めて知ったという方は、この機会にぜひ、これまでの自身の行動を振り返ってみてください」 ーーは? 在来星人の種の保存? いったい何の話をしているんだ。 聞き慣れない言葉に、わたしは眉をひそめる。
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