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第3のトコロ:祖父の墓
第3のトコロは祖父の墓。これが第100のトコロで、私の物語は終わるはずだった。電車もバスも通っておらず、最寄りの「町」から数キロの場所にある。タクシーを呼んでも嫌がられそうだから、レンタカーを借りるしかない、そのために教習所で練習するしかないかと考えていた。
だが私の気持ちが通じたのか、声をかけてくれた人がいて連れて行ってもらうことができた。
祖父が亡くなったのは今から15年前のこと。子どもの頃は毎週末祖父母の家に遊びに行っていたのだが、祖母が「早く結婚しろ」と言ってくるのが苦痛で仕方なく、疎遠になってしまった。
私からは全く連絡しない状態が続いていたが、ある日急に祖母から電話がきて「おじいちゃんがどうしても会いたいといってるよ」と言われた。祖父が言うならばと私は準備をして翌日祖父母の家に向かった。
そこでもやはり祖母は早く結婚しろと叱ってきたが、個人の自由だと庇ってくれたのが祖父だ。祖父は戦前戦中戦後を必死に生き抜く中で、他人の考えや生き方を尊重するようになった人。その日私は祖父と最初で最後の写真をパチリ。
祖父が亡くなったのはそれから数日たった日のことだった。病気ひとつしたことのない人だったが、突然心臓発作を起こし、救命措置をするも間に合わなかった。
私は葬式の前日葬儀場付属の宿泊施設に泊まり、祖父の棺と並んで寝た。死体だから気持ち悪いとは思わなかった、少しでも長く一緒にいたかった。
その後の記憶はほとんどない。ただ、葬式のあとのお清めで周りの人が、まるで宴会のように酒だなんだと騒いでいたのをはっきり覚えている。泣いていたのは私だけだった。
今日も祖父のお墓の前で涙が止まらなかった。本当に悲しかったし、いまだに寂しい。そんなこと言ってたら祖父も安らかに眠れないかもね。もし来世があるのなら、また巡り会えますように。
残念ながら、この話は美談では終わらない。祖父が私に残したもの、それは土地だ。誰も買う人がいないような場所にある土地だ。毎年固定資産税をとられるだけの遺産だ。おじいちゃん、これは欲しくなかったよ。個人で買う人はいないだろうから、工場を建てたい企業が手を挙げるのをまっている。
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