序章 元凶

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序章 元凶

西暦1980 年 昭和55年 某月某日  冬 ハァッッハァッハァッッ・・・・・   心臓が異様に早く鼓動を刻んで苦しいーーー でもーーー 逃げなくては! あの子から絶対に逃げなくては! 少女はガランと生徒が帰宅して現在誰もいない校舎内を駆け抜ける   全速力で駆けた 嵐の様に跳ねる息を必死に整え後ろを振り返る… ここまで来たらもういくら何でも大丈夫じゃ無いか とーーーー…… 長い1階の静まり返った廊下の突き当たりに不気味な黒い烏のような染みが突如〜…空間に浮かび上がる ボンヤリ浮かんだ染みはーーーー…… ドンドン大きくなる 長い……黒い髪 黒い人型 長い脚 長い腕 … 彼女の美しいそれが私はどれ程羨ましかったか…! 自分よりもずっとずっと素晴らしいそれが嫉ましくって嫉ましくって堪らなかったか 「ひっっっ!」 バサッとーーー… 本物の烏みたいに長い腕が黒く黒く広がった まるで翼だーーー… トンッと…   脚が床を蹴る ーーーー凄い勢いで空中を飛翔し自分に突進してくる くふ…くふふふふふふふふっっ 「やめてぇ〜〜〜〜〜〜〜!!」 悪かったわ! 私が悪かったわ! あの子がアナタの側に居なくなってから私達は確かにやりたい放題だった 愚かで…… 残虐で 逃げるアナタを追い詰めて学校にコッソリ持ち込んだエアガンで先生に見えないようにBB弾を何発も打ち込んだ クラスの誰も大人に言いつけなかった だから『いいんだ』と気を大きくした バレ無いように玉はさり気なくガムテで片付けたし? アナタのチャームポイントの三つ編みに結んだ髪がオレンジ色の玉まみれになるのがいい気味だと思ったわ! 悪かったわ! 悪かったから! でもマミコやミチカをもうやっつけたんだから私は見逃してよっっっ! 実際に手を下したのはあの2人じゃない!! 見逃してよ! 少女は後ろを見ずに突き当たりの図書室に逃げ込んだ 急いで扉を閉めるとその途端凄まじい音が炸裂した 身体の全ての力を振り絞り扉を押さえる 身体で両開きの木製引き戸扉にもたれかかる 無人の図書室全体がグラグラ揺れた気がした がーーー 直ぐにピタリと静寂が広がる 気味の悪い無音 もうアイツは諦めたろう 『助かった……ッッ』 少女はフッと髪を掻き上げ何気なく俯く顔を上げる ひぃ 縦長の細い幅の磨りガラスの向こうにべったりと黒い影が張り付いている ふわっふわっ その度に小さく唇の形に色味が変わる フゥッと、ゆっくりーーーーー ガラスが透き通る 何度も 幾度も   「ーーーーーーあーーーーーーー」 「ーーーーーーーそーーーーーー」 「ーーーーーーーーびーーーーーーー」 「ーーーーーーーーーまーーーーーーーー」   「ーーーーーーーーーーーしょーーーー」   「!!」 心臓がバクバク今にも破裂しそうに躍る そうこの部屋、図書室は中から鍵がかからない 扉片側だけは生徒の悪戯による怪我を防ぐ為、建具でビス留めされてはいる そんな諸事情は学級委員長をつとめる少女はよく知っていた 何故なら何度も役職の会合で出入りをするからだ そうだ! 咄嗟に直ぐ側にある掃除道具入れのロッカーからモップをつかみ出すと扉のつっかえ棒へと利用した ついで他のガラクタ類も扉前にアレコレ置く 多少の気休めにはなるかもしれない ガタガタガタガタ!! とんでもない勢いで2枚の引き戸の扉全体がユサユサ揺れている 少女は脱兎の如く部屋奥に走り込み、内ポケットから小さな封筒を取り出す 出そうかーー どうしようか? マミコやミチカがあんな事になった後〜 それでも投函を迷ったから切手を貼って先生から聞いた住所こそ書いたけど ーーー肝心な『宛名』 ”あの子の名前”は未だ書いてない 少女は震える瞳で周囲をグルッと見回した いやだ 私はまだ死にたくないっっっ!   恋だって素敵な男の人とつき合ってもいないじゃないの! こんな田舎の地方高校を飛び出して自由にッッッ そう、都会の一流大学に進学する筈なんだもの! 子どもの頃からチヤホヤ育ったアンタに何がわかるっていうのよ! だから見逃してよ!
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