11人が本棚に入れています
本棚に追加
八百万の神住まう、この日の本の国には――各地の鬼門を守る一族がいるのだが、一般にはあまり知られていない。
彼らは「籠目」または「加護目」の血族と云われ、世に仇なす魑魅魍魎を封じ、人間とあやかしの秩序を守るのが役目だ。
勘が鋭い、第六感が働く――そんな自信のある人は、うっすら感じ取っているかもしれないが、そうでもなければ彼らは一市民となんら変わりのない暮らしぶりで町に溶け込んでいる。
ここに一人の大学生がいる。
どこからどう見ても、平均的な日本人男性で、容姿は良くも悪くもあまり印象に残らない。交友関係はそれなりに――目立ちも浮きもしない、よく見る光景に溶け込む程度の関係を築いている。
彼の名を町田はじめという。これもまた、覚えやすいがありふれてもいる気もする、顔と名前が一致しない程度にいい出来だと、名付け親である彼の祖父は自慢げに語る。
町田はじめ。彼こそが、このS県×市の鬼門を守る、かごめ一族は町田家の次期当主である。
その筋の者の間では公家のお坊ちゃま扱いであるが、家を出れば一般市民に扮して生活している彼には当然、お付きの黒服が付き従うということはない。
代わりに、身辺を守る使い魔が与えられていた。
「あるじ。そっちは方角が悪い。通ると足を痛めるから避けろ」
蜜柑色の尻尾が上下する。はじめの足並みに合わせて、ちゃっちゃっちゃっと爪を鳴らすのが化け狐のコンだ。
「大丈夫! あたしが守ってあげるから、あるじは好きな道を通っていいんだよ!」
黒い尻尾を奮然と一振りし、丸っこい体で ぽてぽてぽてと数歩先を行くのが、豆狸のポンだ。
ありがとうと微笑みかけるはじめだが、二人は互いの意見の相違に牙を剥き、鼻面を突き合わせていがみあっている。
この二体の使い魔……、はじめに対する忠心は目を見張るものがあるのだが、一方が左と言えば一方は右……と正反対の性格なのである。
最初のコメントを投稿しよう!