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「咲凛にとっては大切なママだけど、俺にとっては大切な妻だってこと、忘れないで」
続く言葉に、胸がキュンと狭くなる。
「男の俺がこんなこと言うのはおかしいかもしれないけど、せめて二人きりの時だけは名前で呼んでよ」
次々に投げ掛けられる心を擽る言葉に、胸をときめかせずにはいられなかった。感情が高まって潤む目を真っ直ぐ瑛斗に向ける。
「今でも変わらず瑛斗が大好きだよ」
「俺も美咲が大好きだ。もちろん、ママとしての美咲もだよ。母は強しっていうけど、まさにその通りだと思う。泣き虫だった昔の美咲が嘘みたいに、咲凛が病気を乗り越える度にどんどん強くなっていったよな」
瑛斗が感慨深そうに目を細めた。
咲凛が高熱で夜間病院に駆け込んだこと、気管支炎で苦しそうに咳き込む咲凛を抱いたままソファーで夜を明かしたこと、咲凛の入院に付き添ったことなど、これまでの様々な出来事が思い出された。
「瑛斗がいない間は、私が咲凛を守らなきゃって必死だったの」
「そっか、ありがとう。本当に感謝してるよ。だけど驚いたよ」
「ん?」
「美咲がこんなに泣いてる姿を見たのは初めてだ」
「だって、それは……」
「しかも、理由が俺の浮気を疑って、なんて……可愛すぎるだろ。泣かせておいて何だけど、まだ俺のことちゃんと思ってくれてるんだなって、すごく嬉しくなったよ」
恋愛の駆け引きとは無縁だった、真っ直ぐに気持ちを伝えてくれる、そんな瑛斗が美咲は大好きだった。
「じゃあそろそろ調理に取り掛かろうかな。ちょっと時間がかかるかもしれないけど、気長に待ってて」
「うん。楽しみに待ってるね」
後ろを振り返り、レジ袋と床に転がったじゃがいもを拾い上げた瑛斗が、発表会の子供のように照れ臭そうにキッチンに向かった。
数分後、キッチンを覗くと瑛斗のあたふたしている様子が窺えた。料理教室に数ヶ月通ったとは思えないほどの劣等生ぶりを発揮している。ぎこちない手つきからは、必死さと、美咲への愛が溢れていた。
「出来たよ。お待たせ」
数時間後テーブルに並んだのは、大好物のミートドリアと、瑛斗の思いがたっぷり溶け込んだ優しい味のポトフだった。
「これからも美咲の夫でいさせてください」
「こちらこそ宜しくお願いします」
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