君の名を

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 それからまた数日後の昼下がり、いつもと同じ場所で様子を窺っていた美咲は、とうとうその現場を目撃することになった。  ネイビーのスーツにグレーのネクタイ。目に飛び込んできたのは、紛れもなく瑛斗の姿だった。もちろん会社を早退するとは聞かされていなかった。レジ袋を片手に佐伯宅の前に立った瑛斗は、美咲に気付く様子もなく、ネクタイを整えてからインターホンを押した。  手にしたスマホカメラの撮影ボタンを押そうとする指が、心臓の拍動に合わせて震えている。  数秒後、開いたドアからあの女性が顔を出すと、瑛斗は照れ臭そうに軽く会釈をし、中へと招き入れられた。  震える指先で、その様子を連写していた。  画面上部のデジタル時計は二時五分と表示されている。三時には咲凛を幼稚園に迎えに行かなくてはいけない。ここで瑛斗が出てくるのを待っているわけにもいかず、かと言って電話を掛けることも押し掛ける勇気もなかった。  一旦自宅に戻った美咲は、ソファーに腰掛けスマホを開いた。  たくさんの証拠画像が集まった。  スマホに映し出された画像を順に指で繰っていると、画面に水滴が落ちた。二粒、三粒と増えて、やがて視界がぼやけて見えなくなった。  こんなものを集めて、一体何になるというのだろう。これを瑛斗に突き付けて、その後自分は一体どうするつもりなのだろう。  その夜美咲は、何事もなかったかのようにいつもと同じ時刻に帰宅した瑛斗の顔をまともに見ることが出来なかった。  昼間提げていたレジ袋は彼女から頼まれた買い物だったのだろうか、持ち帰ってはこなかった。彼女の家で食事はしなかったのだろうか、瑛斗はいつものように自分の作った夕食を「美味しい」と言いながら口にした。 「咲凛、食べてる時は立ち上がらない」  そうして、よき父親のふりをした。
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