君の名を

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「十年間、俺と咲凛の為に毎日栄養バランスを考えて美味しい料理を作ってくれた美咲には本当に感謝してるんだ。お陰で十年経った今も体型は全く変わってないし、健康に過ごせてる。子育てで大変だったのに俺のことまで気遣ってくれて、家ではゆっくりしてて、なんて言ってくれるからつい甘えてしまって、家事は殆ど美咲に任せっきりだったよな」  申し訳なさそうに眉を寄せる瑛斗に、美咲は首を振って否定した。 「それは私がやりたくてやってたことで、不満を抱いたことなんて一度もないよ。瑛斗だって仕事で疲れてるのに、毎日咲凛をお風呂に入れてくれたり、寝かしつけだってやってくれてたよね」 「俺にはそれくらいしか出来ないから」 「すごく有り難かったよ」 「そう言ってもらえると救われるよ」  瑛斗が眉を開いた。 「誕生日は美咲を産んで育ててくれた両親に感謝する日で、結婚記念日は今までの感謝と『また次の一年も宜しく』ってことを伝える日だ。今年は十年って節目の年だし、美咲と二人きりで過ごしたかったんだ」  瑛斗の言葉が、隙間風を塞ぐように二人の間に出来た溝を埋めていく。 「いずれは咲凛も独り立ちして家を出る時がくるだろうし、そうなると二人きりにはなるわけだけど……」 「うん。……ん?」 「いやあ」  不意に口ごもった瑛斗が、誤魔化すように話題を変えた。 「生まれて初めてのお泊まり、咲凛はすごく嬉しそうにしていたけど、美咲はどう? やっぱり心配?」 「うん。だって私にとっても初めての経験だから」 「そう言うと思ったよ。でもさ、神経をすり減らしたあの頃が嘘みたいに、咲凛は元気にすくすく育ってくれてるし、これからは少しずつ二人きりで過ごす時間も作らない?」  言ってから、瑛斗は頬を赤らめた。 「そうだね」  隙間風はぴたりと収まった。
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