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仕込みもだいたい終わったし、メンマの輸入が止まったときの代用品はまた今度考えよか。
突然、男がのれんくぐって来た。蒼い顔して、手には生首持ってる。最近、見慣れてもうた。
「ああ、そこ入り口に血垂らさんといてや。横の氷入れたクーラーボックス置いてるやろ。そこ入れて」
「こ、これでラーメン今すぐ作ってくれまへんか?」
「え、今すぐやと?」
「速い方がいいんで」
生首が誰の首かは聞かへんようにしてる。仏さんの顔まじまじ見てたら食べられへん。医者が担当してる患者の死亡時に、いちいち号泣せえへんのと同じや。
「あのな、ラーメンスープ作るの何時間煮込むか知ってる? おたく、うちはじめてやんな?」
男性は中年。俺とおない年か、あるいは年上。前髪が後退してる。俺はバーバースタイルやから、俺の方がおしゃれや。
「何でそんな急ぐんや。だしちゃんと取られへんで」
「できれば、そのまま頭部を残したまま食べたいんですけど」
あほかいな。生首そのまま入れろて?
「いくらでも出すんで」
おっさん懐から札束取り出して俺に握らせてくる。怖い怖い。
「今日、休みやねんけど」
休みやから、今しかできひんこともあるけど、それ狙ってんの?
「お願いします。嫁ともう一度話したいんです」
おっさんの持ってきた生首が誰かなんて確かめるつもりなかったけど、答え聞いてしもた。やりにく。
嫁さんの皮は剝がした。この方がよく火が通って美味い。こっちも商売やから、見た目悪ぅても美味しく作る。まして、煮込み時間はほとんどないんやから。おっさんは、嫁の生皮剥がれた生首が皿に乗って出てきた瞬間、涙涙にくれてる。
「おお、マミコ」
何があったかは、最後まで分からんかった。でも、おっさんは独り言ずっと言ってた。
「そうか、そいつにやられたのか。灰色のジャケットに、紺色のジーパン。ッズズッ。うまい。後ろから押されたんだな。何でそいつだと分かった? この香り、マミコの香りと、コショウが効いてる。そうか、お前も奴の手をつかんだんだな。でも、お前だけ電車に……ズズッ」
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