生首ラーメン

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 これや思うた。俺にできる俺だけのラーメン。俺、ずっと親父のイノシシラーメンの味と店を継ぐだけや思うて店長やらしてもうてたけど、俺に必要な個性はこれかもって。  昼の営業のみの寂れたこの店の経営はずっと赤字で、親父はわしの余生やから何もせんでええ言うてたけど。  俺、これから本格的に動くわ。もう三年この店やってるけど、バンドやめてからこれって気持ち入れて働ける仕事なかったんや。ラーメンの味は親父の味を守るもんやとばかり思ってた。俺が個性出してもええんや。そやないと、この先やってかれへん。  開店時間の正午にやってきた最初の客は、週に一回来る痩せの大食いの上田君。  売れてる若手俳優みたいな顔して、浪人生。淀川区からこの天神橋筋六丁目商店街まで食べに来てくれてる。近っ。梅田の向こうやし。まあでも、淀川越えて来てくれてるから許したる。 「店長、今日は親父さんは? また脳卒中?」  半分冗談やろけど、的中や。 「具合悪ぅて」 「最近ずっと店長さんが一人で店回してましたよね。あれ? イノシシラーメン今日はないんですか? 生首ラーメン? 新メニューじゃないですか! 作るときは事前に相談して下さいって。もしかして、十月になったからですか?」 「ああ、そうやな。てか、なんでお前に相談せなあかんねん」 「僕は店長のファンですから」 「そこはラーメンのファンになってくれや。俺のファンになってどうすんねんよ。で、何にすんの?」 「生首ラーメンに決まってるじゃないですか! ところで、どれぐらいグロいんですか?」  ほら来た。こいつ何でも食べるからな。 「グロないで。生首の髪の毛があーとか、人間の顔がこっち見てるーとか、目玉浮いてるーとか、そんな恐ろしいもんやあらへん。生首いっちょう!」  生首でだし取っただけやから。
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