1人が本棚に入れています
本棚に追加
これや思うた。俺にできる俺だけのラーメン。俺、ずっと親父のイノシシラーメンの味と店を継ぐだけや思うて店長やらしてもうてたけど、俺に必要な個性はこれかもって。
昼の営業のみの寂れたこの店の経営はずっと赤字で、親父はわしの余生やから何もせんでええ言うてたけど。
俺、これから本格的に動くわ。もう三年この店やってるけど、バンドやめてからこれって気持ち入れて働ける仕事なかったんや。ラーメンの味は親父の味を守るもんやとばかり思ってた。俺が個性出してもええんや。そやないと、この先やってかれへん。
開店時間の正午にやってきた最初の客は、週に一回来る痩せの大食いの上田君。
売れてる若手俳優みたいな顔して、浪人生。淀川区からこの天神橋筋六丁目商店街まで食べに来てくれてる。近っ。梅田の向こうやし。まあでも、淀川越えて来てくれてるから許したる。
「店長、今日は親父さんは? また脳卒中?」
半分冗談やろけど、的中や。
「具合悪ぅて」
「最近ずっと店長さんが一人で店回してましたよね。あれ? イノシシラーメン今日はないんですか? 生首ラーメン? 新メニューじゃないですか! 作るときは事前に相談して下さいって。もしかして、十月になったからですか?」
「ああ、そうやな。てか、なんでお前に相談せなあかんねん」
「僕は店長のファンですから」
「そこはラーメンのファンになってくれや。俺のファンになってどうすんねんよ。で、何にすんの?」
「生首ラーメンに決まってるじゃないですか! ところで、どれぐらいグロいんですか?」
ほら来た。こいつ何でも食べるからな。
「グロないで。生首の髪の毛があーとか、人間の顔がこっち見てるーとか、目玉浮いてるーとか、そんな恐ろしいもんやあらへん。生首いっちょう!」
生首でだし取っただけやから。
最初のコメントを投稿しよう!