生首ラーメン

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「うわー、見た目普通のラーメンですね。チャーシューが人間の肉だったりして」  その手があったか。そやけど、親父がスープに浸かってなかったらこんなん作ろうなんて思わんかったんや。  上田君、めっちゃ食うてる。早い。どんどん茶色く淀んだスープが減ってく。生臭さのほとんどはニボシの臭いが取ってくれてるし、味はさっぱりしてるから当然かもな。  ぱらぱらと客が来る。常連はみんな親父の顔馴染み。俺の味を求めて来るわけやない。俺も新作ラーメンなんて、親父に出させてもらわれへんかったしな。  みんな珍しがって生首ラーメン注文する。たぶん、ちゃかしたいんとちゃう? どうせ美味しない思うてんねやろ? 「戸部(とべ)さん? 親父さんが作ったんか?」  戸部は俺の苗字。 「まぁ、共作ってとこやな」  正確には親父が作ったんやなくて、親父で作ったんやけど。  上田君が真っ先に完食した。ビール飲みほしたみたいな顔で、スープ一滴も残さんかった。 「戸部さん。何でだし取ったんですか? イノシシでも豚骨でもないですよね? 鰹節? それともニボシ? マジで何でだし取ったんですか?」  こいつは美味しいときは、しつこい。つまり、これは成功したってことや。これ、公式メニュー決定ちゃうか? 「あとから、濃い白みそみたいなのが、ツンと鼻の奥をくぐるぐらい味を引くんですよ。濃い白みそって矛盾してますけど。クリーミーなのに、濃厚っていう。でも、基本はさっぱりしてて、魚の血合みたいな生臭さをニボシで消してますよね? でも鰹節ベースではないし」  脳みその苦味がパンチ効いてるの、よう分かってるやん。 「スープの作り方は教えられへんて」 「じゃぁ、明日また来ます」 「お? 週二回になるけどええんか? 新しいバイト見つかったん?」  そのとき一見(いちげん)さんが、たまごチャーハンをキャンセルして、また生首ラーメンを注文してきた。おかわりなんて、三年間ではじめてやで。  上田君が席を立つ。 「バイトはまぁ、近所のスーパーでしばらくは持ちそうです。ご馳走様でした。絶対明日も来ますね。生首ラーメン、数量限定じゃないですよね?」 「数量はいつも通り百八十食分のつもりやけどなぁ。なんか、よう売れるな今日。どうしよか。多めに作るか。でも、上田君な。食べにくるのは、うちの姪っ子に会いたいだけちゃうのん?」 「まぁ、それもありますけど。じゃあ、また明日」  上田君は顔を綻ばせて、帰って行った。
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