生首ラーメン

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 畜産農家は流通ルートを奪われる思うたんか、ご遺体を回してもらうことはできひんかった。だから、葬儀屋と契約した。葬儀屋ならあらかじめ葬儀プランに豚の飼料に遺体を回す『豚葬』が選べるし。  そりゃ、昔は遺骨損壊罪が適用されてたやろけど、今はちゃう。  死体損壊罪もや思うけど、あれは確か二〇二四年(令和六年)に改正されてん。今は二〇三〇年(令和一二年)やから、もう六年前になる。  死体損壊罪も遺骨損壊罪も刑法第一九〇条で、三年以下の懲役らしいっての、昨日俺調べてんけど『ただし、損壊の目的が食糧の調達、または飼料として再利用する場合はその限りではない』という文言が追加されててん。二〇五〇年に起こるとされる食糧危機問題を解決するために、らしいで。  火葬をやめてほかの葬儀方法を選択したら、補助金が出るしな。主な漁場に遺体を流す『漁葬』やと一万円もらえるし、豚に限らず家畜の飼料として行政に引き渡せば五万円もらえる。『豚葬』って葬儀に出した遺族らは笑われるけど、今スーパーで売ってる豚のほとんどが亡くなった人の遺体をミキサーにかけて流動食状にしたもの食うて育ってる。  生首ラーメンは、新しい葬儀の形に貢献できるかもしれへん。首から下は火葬なりせなあかんけど。今のところ苦情も来てへんし、法律にも抵触してへんからな。  正直親父が死んだとき、寸胴鍋で一二時間かけて煮込んだ一〇〇リットルのスープを捨てたくなかったんや。もったいないやろ。
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