1

1/1
前へ
/7ページ
次へ

1

 母が僕を置いて、失踪した。  どうやら駆け落ちらしい。悲しいという感情はなく、むしろ男にだらしない母らしいと納得してしまった。  母子家庭で身寄りのない僕は施設に預けられそうになった。  しかし、そんな僕を引き取ってくれる奇特な人物が現れた。  名前は小宮雪兎。僕の遠い親戚で、年齢は37歳、独身。小宮雪兎についての情報はそれくらいしか分からなかった。  数日後、彼が住んでいるマンションに向かった。 「ここか……」  玄関前に立ち、一つ深呼吸する。  不安と緊張でいっぱいだ。  そもそも、小宮雪兎はどんな人物なんだろう? 名前から小柄なイメージがする。怖い人じゃなければいいな。  僕は意を決して、チャイムを鳴らす。  しばらくしてドアが開いた。  目の前には身長が180cm以上はありそうな大男が立っている。瞳は鋭く、殺し屋のようで、小宮雪兎という名前とは相反する見た目だった。  ああ……、さよなら。僕の穏やかな日常。  僕は心の中で泣いた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加