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「君が三月君か?」
雪兎さんにそう聞かれ、慌てて挨拶をする。
「今日からお世話になる三月です! よろしくお願いします!」
頭を下げると、雪兎さんは「……よろしく」と無愛想に言った後、僕をリビングに案内した。
「暮らす上で守ってほしいことがある」
ダイニングテーブルの向かい側に座る雪兎さんはジロリと僕を睨みつけた。その迫力にビクリと肩を震わせる。
もしかして金を払えと言われるんだろうか……ありえる。
そもそもタダで面倒を見てもらえるはずがない。
「あの、お金はバイト先を見つけてからでいいですか?」
「は?」
雪兎さんはポカンと口を開けた。
「金って何のことだ?」
「守ってほしいことがあるって、雪兎さんが言うから……」
そう言った瞬間、雪兎さんは顔に手を当て、ため息をついた。
「子どもにそんなこと言うわけないだろ。君には俺がそんなクズに見えるのか?」
「はい」
「はい?」
思わず本音が出てしまい、サーッと顔が青くなる。
なんてスムーズにな誘導尋問なんだ。
「い、いいえ!」
「どっちなんだ?」
雪兎さんは不快そうに眉間に皺を寄せた。
顔、こわっ! 絶対、怒ってるよ……。
僕の表情は強張り、額からは嫌な汗がダラダラと流れ落ちる。
まずい。どうにかごまかさないと。殴られるかもしれない。
命が惜しい僕は、全力で土下座をすることにした。
「クズだなんてとんでもない! 雪兎さんは親に見捨てられた哀れな子どもに手を差し伸べてくださった神様です!」
床を見ながら、いかに雪兎さんが素晴らしいか語っていると、ポンと肩を叩かれた。
「十分、君の気持ちはわかったから、土下座はやめてくれ。俺がすごく悪い奴みたいだろ」
顔を上げると、雪兎さんの困惑した表情が目に映る。どうやら怒ってはいないようだ。
「……それで、僕は何をすればいいんですか?」
恐る恐る尋ねると、雪兎さんはボソリと言った。
「いってきますといってらっしゃい、ただいまとおかえりを必ず言ってくれ」
「へ?」
予想外の言葉に間抜けな声が出た。
「これだけ守ってくれたら、後は好きにしてくれていい」
「……わかりました」
そんなことを守ってほしいだなんて、変な人だな。
それが雪兎さんに対する印象だった。
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