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 雪兎さんと暮らし始めて2ヶ月が経った。  彼は家でできる仕事をしているらしく、基本的に家のリビングにいて、パソコンに何か打ち込んでいた。  どんな仕事をしているかは教えてくれなかったけど。  僕の「いってきます」「ただいま」に、雪兎さんが「いってらっしゃい」「おかえり」と返す。それは決まり事だけど、そんな日々に僕は心地良さを感じるようになっていた。  それに、雪兎さんは殺し屋みたいな怖い見た目と違い、すごく優しくて面倒見の良い人だ。  料理を作ってくれるし、相談ごとに乗ってくれるし、休みの日には一緒にゲームもした。  ただ一度だけ、ものすごく怒られたことがあった。  家に帰ってきたとき、雪兎さんがいつもいるリビングにいなかったので、「ただいま」を言わずに自分の部屋で過ごしていた。しばらくしてスマホの電話音が鳴った。 「はい、もしもし」 「今、どこにいる!?」  電話に出ると、雪兎さんの慌てた声が聞こえた。 「どこって、自分の部屋にいますけど?」  そう答えた瞬間、ドタドタと廊下を走る音が聞こえてきた。そして、急に部屋のドアが開いた。目の前には怒った様子の雪兎さんが立っている。 「ただいま言ってねえだろ!」  唖然としていると、雪兎さんにガシッと肩を掴まれ、 「ただいまは!?」 「た、ただいま……」 「おかえり! 心配させんじゃねえ! バカヤロウ!」  そう言って、雪兎さんは部屋から出て行った。  いや、僕がただいまと言わなかったのは、雪兎さんがリビングにいなかったからだ。  少しムッとしたが、ふと雪兎さんの言葉を思い出した。 「心配させんじゃねえ!」  心配してくれたのか。  母と暮らしていたときはそんなこと一度もなかった。反対に子どもがいるから、男に逃げられると煙たがられていた。 「あはは。ツンデレすぎるよ、雪兎さん」  その不器用な優しさに思わず笑みが溢れた。
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