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青眼の姫様
「やーい、南蛮人!」
「南蛮人、あっちいけー! 青眼が感染るだろうが!」
通りを歩く千代の耳にそんな心無い声が届く。
(全く、相変わらずうるさい者たちね)
千代は苦い表情を浮かべながら、囃し立てる子供たちの側を足早に通り過ぎる。
「おーい、南蛮人! 無視かぁ?」
「あいつ南蛮人だから、俺たちの言葉が分からないんじゃないか?」
せっかく聞こえないふりをしているのに、追い打ちをかけるように千代を馬鹿にした言葉が投げかけられる。
そんな声にいちいち構っていてはきりがないと分かっているはずなのに、千代は子供たちの挑発するような物言いに我慢がならなくなったのか、足を止めると振り返った。
「何よ? 近寄るなって言うから無視してあげたのに」
「何だ? 怒ったのか?」
子供たちはニタニタと笑いながら、千代の近くまで寄ってくる。
「南蛮人のくせに偉そうだな」
「いつも、南蛮人南蛮人って。わたくしはれっきとした倭人よ!」
「はぁ? 倭人? 何言ってるんだ。お前の目の色は、どう見たって俺たちとは違うだろうが!」
「そーだ、そーだ! そんな眼の色の倭人はいねぇよ」
いつも揶揄われる千代の青い瞳。確かに南蛮人と呼ばれる者たちは、青い瞳をしているのだと聞いたことがあったが、千代は、その南蛮人と呼ばれる人たちのことを見たことがなかった。だから、そんな見たこともない人たちと一緒くたにされたくなかった。
「ちょっと青みがかっているだけじゃない」
「いいや、違うね! どう見たって南蛮人だ!」
千代たちが言い争う声を聞きつけて、周りの長屋から幾人もの人が顔を覗かせる。中には千代のことに気が付いたのか、顔を寄せ合ってひそひそと話をしている大人もいた。
「ああ、ほら、まただ……」
「本当だ。井上様のとこの」
子供たちの諍いを止めるでもなく、ただ遠巻きに眺めるだけの大人たち。千代は周りの大人たちの態度も気に食わなかったが、そんなことはどうでもいいとばかりに子供たちへ言葉を返す。
「あーら、そう。わたくしは恥ずかしながら南蛮人にはまだ会ったことがないのですけれど、そんなに言うのだから、あなたたちは南蛮人に会ったことがあるのですよね?」
千代は軽蔑した眼差しを向ける。
「ぐっ……」
子供たちは千代の言葉にすぐに反応を返すことができなかった。互いに顔を見合わせて無言になる。
「ほーら、あなたたちだって南蛮人を知らないんじゃない。あなたたちの言っていることは、ただの想像でしかないのよ」
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