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魅惑の姫様
それから四年の歳月が流れた。
千代は十四歳となり、年頃の娘へと成長していた。その容姿は誰もが息を呑むほどに麗しく、その美しさはお江戸中の噂となった。
しかし、千代が町を歩くと異国の風が吹くなどと揶揄され、御家人の家の娘であるにもかかわらず、相変わらず陰口を叩かれていた。男も女も大人も子どもも、誰もが彼女を一目見ようと集まるが、遠巻きに見ているだけで誰も彼女に近づこうとしない。そして、こそこそと何かを囁き合う。
(まるで、わたくしは見世物ね)
いつの頃からか、千代はそう感じるようになっていた。
「姫様、しっかり前を見て歩いてください」
そんな千代に太郎はいつも付き従っている。
太郎も十四歳となり、その背丈は随分と伸びていた。元から無口で無愛想な子ではあったが、今では千代以外の者の前では滅多に喋らない。表情の変化も少ないため、彼が何を考えているかを察することができる者はほとんどいなくなった。
そんな太郎だが、剣術の腕前は目を見張るものがあり、既に同世代の者たちでは相手にならぬほどの強さだった。また彼は学問にも通じており、四則演算が得意だった。そして何より彼も千代同様に、とても見目麗しい容姿をしていた。そんな眉目秀麗文武両道に秀でた彼だったが、悪目立ちしている千代とは違い、何故だか町の人々特に年頃の町娘たちが太郎のことを噂することは全くと言っていいほどなかった。
そんな太郎の姿を見て千代は思う。
(わたくしも太郎も同じ青眼だと言うのに、何故、わたくしばかりが?)
複雑な気持ちになりながら、千代は今日もまた町を歩く。
(わたくしと太郎は何者で、何故皆と違うのかしら? 太郎は何かを知っているようだけれど、何度聞いても答えてくれないし。わたくしと太郎に血の繋がりはないと言うけれど、どうしてそんなことが言い切れるのかしら?)
千代はふとした事からよく、自身の出自について考えていた。それほどまでに彼女は自分が何者なのかを知りたがった。
しかし、真実は手を伸ばしたからと言って、簡単に手に入るものではないらしい。故にいくら考えても答えに巡り合うことはなく、彼女はこうして悶々とした日々を送っている。
「姫様! 前を!」
歩いている最中も考え事をしていた千代だったが、太郎の声で我に返る。気が付けば人と肩が触れ合っていた。
あっと思った時には相手は道端に尻餅をついていた。それほど強くぶつかった覚えはないが、千代は慌てて謝罪する。
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