魅惑の姫様

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 男は太郎の気迫に気圧されながらも、虚勢を張り続ける。そんな男に千代は明らかに侮蔑を込めた目を向けた。 「まず、怒鳴るのを辞めてくださるかしら? 大きな声を出せば相手が従うと思っているのならば、考えを改めるべきよ」  千代の辛辣な言葉に男の喉から「ぐっ」と音が漏れる。どうやら図星だったらしく、みるみる男の顔は赤くなる。 「な、なんだと! 南蛮人が偉そうに説教かあ!」  男は気まずさを誤魔化すかのように、さらに大声を張り上げる。千代はうるさそうに顔を顰めながら、話を続けた。 「話が通じないのかしら? だとしたら困ったものね」 「きっ、貴様ぁ!」  男は遂に拳を振り上げた。しかし、千代は意にも介さず冷たく男を見る。 「あら、通じているんじゃない。……言葉が通じて良かったわ。では、三日待ちなさい」  千代の唐突な言葉に、男の動きが止まる。男はパチパチと目を瞬いた。 「な、何を言ってやがる?」 「三日待てと言っているのです。……貴方がお奉行様へ献上すると言う品と同じ品を、わたくしが用意いたしましょう」 「はぁ? そんな真似ができるはずがねぇだろ! だってあれは……」  男は馬鹿にしたように鼻で笑った。しかし、千代は動じることなく、静かに男を見つめる。そして再び口を開いた。 「やってみなければ分かりません。もしも三日後、同じ品が用意できなかった時は、わたくしは潔く貴方の元へ下女として参りましょう」 「ほ、本当か?」  千代の言葉に男の目の奥がギラリと光った。千代はそんな男の目をしっかりと見据えて、とびきりの笑顔をみせる。 「ええ。女に二言はございません」  男はその言葉を聞いて、思わずニヤリと口の端をあげた。振り上げていた拳を下ろすと、機嫌良さげに声を張る。 「いいだろう。三日後だ! 三日後にお前の屋敷へ行く。両親にしっかりと別れの挨拶をしておくんだな」  男はそう吐き捨てると足早に去って行った。その背を見送りながら、太郎は千代に尋ねる。 「大丈夫なのですか? あんな約束をして」  太郎の問いに、千代は自信ありげに頷いた。 「ええ。大丈夫よ。きっと上手く行くわ」 「しかし……」  尚も不安そうな太郎に、千代は笑って見せる。 「大丈夫! わたくしに任せておいて! と言っても、専ら動くのは太郎、貴方なのだけど」 「……分かりました。姫様がそう仰るのなら、私はもう何も申しません。して、私は何をすれば?」 「それは屋敷に戻ってから話します。お父様のお力も借りなければなりません」
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