青眼の姫様

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 千代は勝ち誇ったように笑みを浮かべる。 「うっ、うるせー!」 「そうだ。そうだ」  子供たちは顔を真っ赤にして負け惜しみを言う。千代はそんな子供たちを鼻で笑い飛ばした。 「よく知りもしないのに口にするのは、逆にあなた方の無知を晒してしまうことになるので、気を付けた方が宜しいかと」 「うっせーよ! 女の癖に!」 「女だから何だと言うのです?」  千代は自分よりも背の高い相手を下から睨みつける。そんな態度が余計に癪に障ったのか、子供の一人が吐き捨てるように言った。 「拾われ子の癖に!」  千代の表情がぴくりと引きつる。 「おい、やめろ」  周りの大人がようやく子供たちを宥めようとする。だが、一度火のついた子供たちの怒りはそう簡単に治まるものではなかった。 「そうだ、そうだ。拾われ子の癖に! 偉そうな口を叩くんじゃねぇよ!」  千代は何か言い返そうと口を開いたが、しかし、その口から言葉が発せられることはなかった。 「拾われ子」  それは千代の出自を示す言葉。 「拾われ子の癖に!」  無遠慮にぶつけられるその言葉に、千代はぎゅっと唇を噛みしめた。  その時。 「おい、やめろよ! お前たち!」  凛とした声と共に、千代と子供たちの間に割って入る者がいた。その場に居る人々の視線が、声のした方へと向けられる。  千代も驚いたように声のした方へ顔を向けた。千代の瞳に映ったのは、一人の少年の姿。千代と同じ青い瞳を持つその少年の姿をみとめた途端、千代の顔には安堵の色が広がった。 「太郎っ!」  太郎と呼ばれたその少年は、千代を自身の背に隠すように立ち、子供たちを睨みつける。 「何だよ?」 「何だじゃねぇよ。お前ら、女相手に恥ずかしくはないのか?」  太郎は冷静に言葉を返す。だが、その言葉には凄みのようなものが含まれていた。太郎の凄みに一瞬たじろいだ子供たちだったが、すぐに威勢を取り戻すと太郎に対して言い返した。 「は? お前なんかが偉そうに説教すんなよ。拾われ子の南蛮人が」 「そうだ、そうだ」  子供たちの物言いに、太郎の眉がぴくりと動く。しかし、彼はすぐに平静を取り戻した。 「確かに私も千代姫様も拾われ子だが、南蛮人などではない」  太郎は千代と同じ青い瞳を子供たちに向ける。 「拾われ子だろうと、何だろうと、この方は町奉行のお役人、井上正道様のご息女だ! 町人の其方らとは立場が違う!」  太郎の一言で、子供たちは互いに顔を見合わせると、小さく舌打ちをして一目散にその場を後にしたのだった。
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