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辺りは一瞬だけ明るく照らされた。
「な、なんだ?」
正道は驚いて声を上げる。あっという間に光の筋は消えてなくなった。後にはまた、月明かりがやけに明るい夜空が広がっている。やはり星一つ見えない。
「井上様……」
高山の声で我に返った正道は、空を仰いだまま固まっていた顔を元の位置に戻す。
「……今のは一体……?」
「さ、さぁ? も、もしかして、どこからか飛んできた火矢でしょうか?」
高山は動揺を隠そうと早口で言う。
「いや、火矢などでは……」
あの光は火矢などではない。これまでに見たどんな光よりも明るかった。そう心の片隅で感じていた正道であったが、もしも高山の言うように火矢であったならば、そろそろどこかで火の手が上がるだろう。正道は耳を澄まして辺りの様子を窺った。しばらくそうしていたが、特に何も起こらない。周囲で燃えている家なども見当たらない。それどころか、どこからも煙一つ上がらない。
「……特に異変はなさそうですね。我らは二人して狐にでも馬鹿されたのでしょうか?」
「……」
「き、気味が悪いですが、何も起こらないのであればそれで良しとしましょう! ははは」
乾いた笑い声と共に幾分顔を引き攣らせながら高山は正道に向かってそう言うと、歩みを再開させた。
「まぁ、……そうだな。さっさと夜回りなど終わらせて、酒でも呑むとするか」
高山に同意するように言葉を返しながら正道も再び歩き出す。しかし、頭の中では先ほどの光景が焼き付いて離れなかった。あの一瞬で二筋の光が空を割ったことがどうしても信じられないのだ。
「……おい、小十郎よ」
「何ですか? 井上様」
「さっきのあれは、やはり火矢などではないよな?」
正道は隣に並んで歩く高山に問いかける。その問いに高山は無言で返す。この高山という男、図体は大きいのに小心者なのである。高山の無言はもうこれ以上その話はしないでくれという抵抗の表れであった。正道はそれを感じ取り、それ以上は口を噤んだ。
しばらく黙って夜道を進んでいた二人だったが、突然何かに気がついたのか、正道がその歩みを止めた。そして、ゆっくりと周囲を見回して首を傾げる。その様子を見た高山も歩みを止め、どうしたのかと尋ねた。
「いや、今何か聞こえなかったか?」
「いえ……聞こえませんでしたが……」
正道の言葉に高山の肩がビクリと震えた。
「そうか……?」
訝しむ顔を互いに見合わせる男たちの頭上をひゅうという音と共に冷たい風が吹き抜けた。
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