格下の姫様

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「ええ。もちろんです。先ほども申しましたように、吉岡様はわたくしを養女とし、より良いお家柄の方と縁を結んでくださいませ。但し、吉岡様がご縁先を見つけられる迄の間、わたくしの身は今まで通りこちらの井上の家に置かせて頂きとう存じます」  千代の申し出に、吉岡は些か眉根を寄せる。 「何故だ? まさか、その間に姿をくらませるつもりではなかろうな?」 「滅相もございません。これは吉岡家の為でございます。見ての通り、わたくしの見た目は少々特異にございましょう? 目立ち過ぎる為、わたくしが吉岡家へ出入りすると吉岡の皆様にご迷惑をおかけすることになりましょう。ですから、わたくしの身はこちらに留め置き、吉岡様のお気に召す縁組先が決まりましたら、その時は吉岡の娘としてわたくしは嫁ぎます」  千代の申し出に吉岡は「ふむ」と一つ頷くと、すぐにニヤリと笑った。 「まあ良いだろう。しかしお前が言うように、その姿を嫌って、わしの望む縁組が叶わなかった時はどうする?」  その言葉に正道も志乃も思わず吉岡を睨みつける。可愛い娘を目の前でさも当然とばかりに侮辱されたのだからそれも仕方のないことだろう。しかし、吉岡の目は元来の欲深い男のそれに戻っており、二人の抗議の視線など全く視界にも入らなかった。 「もし、良いご縁に恵まれなかった時は……その時は、当初のお約束通りお家のために身を捧げとうございます」  千代は深く頭を垂れた。正道はその様子に、拳をギュッと握る。志乃も今にも泣き出しそうな顔で俯いてしまった。  吉岡はニンマリと下品な笑いを浮かべた。その目は、もう目の前の千代を見てはいない。これからどうやって千代を己の好きなように扱うかの算段でいっぱいだと言わんばかりにギラギラと輝いている。吉岡は口元をペロリと舐めると、千代に向かって手を差し伸べた。 「どちらにしてもわしのものになるということだな。よかろう。次にわしが迎えに来るまでこの家に居ることを許そうではないか」  千代は差し出された吉岡の手からスッと視線を外すと、さらに深く平伏した。 「お話は纏まったということで宜しいでしょうか?」 「あ、ああそうだな」  吉岡は千代の言葉に慌てて頷く。そして、千代にもう一度手を伸べる。ゆっくりと顔を上げた千代は、しかしその手を取ることはせず、ただ真っ直ぐに吉岡を見つめた。その瞳には再び冷たい光が宿っている。 「それでは、吉岡様。またお目にかかれますことを……」
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